研究課題/領域番号 |
20H02881
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塗谷 睦生 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60453544)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アルキンタグ / 脳 / プローブ / 生理活性物質 |
研究実績の概要 |
脳細胞間の情報伝達は化学情報伝達物質のやり取りにより行われるが、これらの多くは分子量が数百から千程度の低分子量生理活性物質である。これらは、それ自体が分子量500以上あるような蛍光色素による標識とその蛍光観察が適用できず、脳内での動態とその病態における変化などが謎に包まれてきた。そこで本研究では、脳の病態生理学に迫るため、これらの低分子量生理活性物質をアルキン基により標識して可視化解析することを試みている。研究初年度の本年度は、これまでに開発に成功したアルキンタグ・ドーパミンの生理学的な解析を進めると共に、この手法を更に一般化させるため、新たな標的分子への応用を開始した。 まず、アルキンタグ・ドーパミンにおいては、それが内在性のドーパミンと化学的・生物学的に非常に類似したものであり、ドーパミンを模倣する新しいプローブであることを明らかにした。そしてこれを用いることで、ドーパミンの神経細胞内への取込みにおける、生理活性や温度への依存性を明らかにすることに成功した。今後はこのプローブとしての特性を活かし、生理・疾患条件下の脳細胞・組織におけるドーパミンの挙動とその変化についての解析を進めて行く。 次に、低分子量生理活性物質の解析のための基盤技術としてアルキンタギング法を展開するべく、更なる応用を進めた。このため、ペプチド性生理活性物質に着目し、ペプチドへのアルキンタグの導入法を検討し、簡便な手法の開発に成功した。これにより作成したアルキンタグ・ペプチドを、上記のアルキンタグ・ドーパミンの解析法を基に応用し、その解析を進めたところ、やはり、元のペプチドに生理学的に類似した新たなプローブとして機能することが明らかとなった。今後、プローブとしての性状を更に解析すると共に、これを活かしてペプチド性生理活性物質の脳内での動態などに関する生理学・病態生理学的解析を進めて行く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の予定通りに研究が進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績に記した通り、これまでに、アルキンタグ・ドーパミンのプローブとしての確立およびアルキンタグ・ペプチドのプローブの開発に成功した。今後は、化学的・生物学的に元の生理活性物質に非常に近く、かつ特異的な検出が可能であるというこれらの新たなプローブの特性を活かすことで、生理・疾患条件下におけるこれらの生理活性物質の挙動とその変化についての解析を進めて行く予定である。 また、このアルキンタギング法が非常に有用であるということが明らかとなってきたため、これを、種々の低分子量生理活性物質の解析の基盤技術として確立すべく、その更なる展開を模索して行く。これまでに試みた分子のみならず、他の低分子量生理活性物質に着目し、これらのアルキンタギングを試みて行く。アルキンタギングに成功した分子群に関しては、そのプローブとしての性状および脳内動態解析への応用を、これまでの解析に基づいて効率的かつ迅速に進めて行く。これにより、各々の低分子量生理活性物質の生理学・病態生理学的理解を図って行くと共に、アルキンタギング法の更なる一般化、展開を図る。
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