研究課題/領域番号 |
20H02883
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江澤 辰広 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (40273213)
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研究分担者 |
佐伯 雄一 宮崎大学, 農学部, 教授 (50295200)
杉原 創 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30594238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アーバスキュラー菌根菌 / 根粒菌 / 野外トランスクリプトーム / 土壌環境 |
研究実績の概要 |
農工大の有機物連用圃場由来の土壌を二分割して一方をオートクレーブ殺菌後、非殺菌土 (土着菌根菌が存在) の割合が1 - 100% (v:v) の範囲で混合した土壌に、コムギ農林61号を栽培することで感染勾配のある試料を作成した。また、野外圃場において国内コムギコアコレクションのうちの20品種を栽培した。これら根から精製したmRNAのシーケンスを行い発現量を算出した。トウモロコシの菌根特異的遺伝子群のアミノ酸配列を基にコムギCDSから相同遺伝子群を抽出後、系統解析を行ったところ、ほとんどの遺伝子にはA/B/Dゲノム由来の3つの同祖遺伝子が存在していた。これらの相対発現量は、感染レベルおよび品種に関わらず遺伝子間で高い正の相関を示す一方、絶対的な発現量は感染レベルおよび品種によって大きく異なっていた。 北米穀倉地帯および日本各地の14地域16圃場から採取した200個体以上のダイズの根における遺伝子発現データに加え、今年度、宮崎大学圃場から30個体を採取し、窒素固定活性の指標となる道管液の相対ウレイド値を測定すると共に根の遺伝子発現データも取得した。これら遺伝子発現データを用いたネットワーク解析により、地下部の遺伝子群は25の共発現グループ(モジュール)に分類された。そのうちの一つで988個の遺伝子からなるモジュールには、根粒形成に関わることが知られている遺伝子群が集積されていたことから、これを根粒形成モジュールと規定した。また、プリン生合成や種々のイオン輸送に関わる遺伝子群が集積した193個の遺伝子からなるプリン生合成モジュールも根粒モジュールと高い発現相関が認められた。しかし、宮崎大学の試料を用いた解析では、これらモジュールの発現量と導管液のウレイド濃度や相対ウレイド値との相関は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コムギにおいては、菌根特異的遺伝子の多くはゲノム内に同祖遺伝子を持つこと、それらの発現は品種によらず共発現パターンを示すものの、絶対発現量は品種間で異なっており、地上部窒素濃度による制御を受けている可能性を示唆することができた。2020年11月に翌年から開始する農工大25年有機物連用圃場での試験のためにコムギを播種した。このとき、菌糸圏土壌を採取して菌根菌が吸収するリン画分を同定するために、菌糸は通過できるが根は通過できない細孔を持つ44umナイロンメッシュバッグ (100 mL容) を個体近傍に埋設した。しかし、スイスへの入国制限に伴い、慣行農業から有機農業への移行過程にある圃場群からの試料採取はAgroscopeスタッフに代行を依頼することとなり、慣行および有機農業の各8圃場(合計16圃場)から採取した128個体(8個体/圃場)の試料を植物防疫の助言を得て2021年度中に輸入する予定である。一方、ダイズにおいて見出した根粒形成/プリン生合成モジュールは、窒素固定活性には依存しない根粒器官の形成に特化したモジュールであると推定された。菌根形成に関わるモジュールは既に2019年度中に同定済みであり、すべての試料の栽培地から採取した土壌試料の化学分析も既に完了している。
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今後の研究の推進方策 |
コムギにおいては、農工大有機物連用圃場から採取した個体の菌根形成遺伝子の発現と菌糸圏土壌で減少したリン画分との関係を明らかにする。また、スイスで採取された試料の菌根形成遺伝子の発現と土壌の化学性との関係解析を進める。ダイズにおいては、土壌環境と根粒・菌根機能との関係に関するモデリング(相関解析)を通じて、根粒および菌根が協調的に機能する環境を明らかにする。
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