研究課題/領域番号 |
20H02884
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 修正 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70370921)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 宿主-根粒菌相互作用 / Cheating根粒菌 / 宿主制裁機構 / 共生アイランド水平伝搬 / G x G 相互作用 |
研究実績の概要 |
宿主によるCheating根粒菌(感染能力を持つが窒素固定を行わない根粒菌)への制裁機能の欠失変異体(pink4変異体)を用いて、圃場から単離した感染表現型や窒素固定レベルの異なる4種類のCheating根粒菌株(w4、 S24、 S33、S35)を用いて、pink4変異体とその親株のMG-20系統にそれぞれ接種して形成された根粒組織からRNAを抽出しトランスクリプトーム解析を実施した。MG-20系統とpink4変異体との間で発現が変動した遺伝子に着目して接種菌株間での変動パターンを指標にクラスタリングを行なった結果、菌株の窒素固定能と相関して変動する遺伝子群に内膜系の形成やタンパク質分解に関与する遺伝子群が含まれることを見出した。 4種類のCheating根粒菌株のうち、窒素固定能低下・喪失の原因が不明であったS24株とS35株について、詳細な比較ゲノム解析を行なった結果、S24株の共生アイランドの配列は、ISで構成される可変領域を含めw4株の共生アイランドとほぼ同一の配列であり、圃場内で水平伝搬が生じたことが示唆された。同様にS35株の共生アイランドの配列は、S33株の共生アイランドとほぼ同一の配列であり、Mesorhizobium属のゲノムからAminobactor属のゲノムに属を超えた水平伝搬が生じたものと推定された。 ミヤコグサ系統との組み合わせにより窒素固定活性が大きく変動することを見出した鳥取県で採取した根粒菌株(113株)と青森県で採取した根粒菌株(131株)を用いて、89系統のミヤコグサ野生系統に対する接種実験を行い、表現型情報の収集を行なった。得られた表現型のうち乾燥重量の菌株間の比を表現型値としてGWAS解析を行なった結果、5番染色体に有意なピークが認められ、根粒菌株との組み合わせによる窒素固定活性の制御に関与する遺伝子座を同定することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1では、当初計画通り、圃場単離の4種のcheating菌をpink4変異体とその親株のMG-20系統に対して接種することにより得られた根粒からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を実施した。得られたデータの詳細な解析を実施し、MG-20系統とpink4変異体との間で発現変動に着目して接種菌株間の比較を行い変動パターンのクラスタリング分析を行なった結果、菌株の窒素固定能と相関して発現変動する遺伝子群に内膜系の形成やタンパク質分解に関与する遺伝子群が含まれることを見出し、PINK4機能を介した宿主のCheating菌への制裁機構を推定するのに必要なデータを得ることができた。 課題2では、圃場単離のCheating菌株の比較ゲノム解析を実施し、S24株とw4株の共生アイランドがISで構成される可変領域を含めほぼ同一の配列を持つこと、また、S33株とS35株の共生アイランドもほぼ同一の配列を持つことを見出し、圃場内で共生アイランドの水平伝播が高頻度で生じている可能性が示唆された。特にAminobactor属の分類されるS33株とMesorhizobium属に分類されるS35株の組み合わせは属を超えた共生アイランドの水平伝播が生じることを示す貴重な例となった。 課題3では、昨年度、ミヤコグサ系統との組み合わせにより窒素固定活性が大きく変動することを見出した2種類の菌株(113株と131株)を用いて、大規模なミヤコグサ野生系統への接種実験を行い、窒素固定活性の指標となるような表現型情報の収集を実施した。89系統のミヤコグサに対する表現型情報を収集し、乾燥重量の菌株間の比を表現型値としてGWAS解析を行なった結果、根粒菌の遺伝子型と相互作用(GxG)するミヤコグサのゲノム領域として、5番染色体上の領域を同定することができた。これは、当初計画を発展させた解析の結果と位置付けられる。
|
今後の研究の推進方策 |
課題1については、2021年度のトランスクリプトーム解析でPINK4遺伝子の機能依存的な宿主制裁機構に内膜構造の変化を示唆する結果が得られたことを受けて圃場単離の4種のCheating菌株、およびnifH遺伝子破壊株をpink4変異体およびMG-20系統に接種することにより形成された根粒の切片を電子顕微鏡で観察することにより、膜構造の変化や根粒菌の形態変化を詳細に観察する。この観察結果とRNA-seq解析の結果を総合して考察することにより、PINK4遺伝子の機能に依存したCheating菌株や窒素固定能の低い菌株への制裁機構のメカニズムを解明する。 課題2については、比較ゲノム解析で明確なCheating 菌化の原因遺伝子が同定できなかったS24, S35株に関してCheating 菌化のメカニズムの解明を目的として、各菌株について窒素固定関連遺伝子群の発現解析を実施する。主要な窒素固定関連遺伝子の発現レベルを指標に窒素固定活性が喪失・低下している要因を検討する。 課題3については、2021年度の解析で同定した根粒菌の遺伝子型と相互作用するミヤコグサのゲノム領域についてその領域に予測されている遺伝子の機能解析を実施し、GxG相互作用の分子メカニズムの解明に取り組むとともに、113株、131株と宿主系統との組み合わせによる菌叢への影響のポット栽培による解析を継続し、課題1で検討する窒素固定能の低い菌株への制裁機構と合わせて、宿主の制裁機構が土壌菌叢に与える影響について考察する。
|