研究課題/領域番号 |
20H02887
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30285241)
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研究分担者 |
中園 幹生 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70282697)
土井 一行 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (80315134)
西内 俊策 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (30726980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水稲 / 根圏 / マイクロバイオーム / GWAS / HTS |
研究実績の概要 |
ゲノム情報既知のジャポニカイネから、多型情報をもとにした主成分分析によりゲノムワイド関連解析に適した遺伝的距離を有する系統120品種を選抜した。名古屋大学大学院生命農学研究科附属フィールド科学教育研究センター東郷フィールドの通常施肥水田および長期無施用水田においてこれらイネ品種の栽培試験を行い、栽培1カ月後、出穂期、出穂2週間後、収穫期において地上部の形質調査を行った。多変量解析によって、イネの品種ごと、施肥処理ごとの形質の特徴を明らかにした。栽培1カ月後および出穂2週間後には、地下部を掘り起こし、微生物叢解析用に根試料を採取した。根試料からの核酸抽出・精製法に検討を加え、従来法に匹敵する回収効率で微生物群集構造の解析結果にもバイアスの無い、ハイスループットなDNA抽出・精製法を新たに開発した。この手法を用いて回収した一部の根試料から核酸を抽出し原核微生物群集のrRNA遺伝子をターゲットにしたアンプリコンシークエンスを実施した。その結果、無施肥条件ではAnaeromyxobacterやClostridialesの優占度が上昇する傾向にあり、根圏の嫌気性細菌による窒素固定の関与の可能性が示唆された。 上記のイネ品種から、過去の栽培試験の結果に基づいて、施肥の有無に対する分げつ数の違いに基づき、施肥条件に対する無施肥条件での生育の差の大きい品種および生育の差の小さい品種を選抜し、施肥および無施肥条件でポット栽培し、初期の生育調査を行うとともにメタンフラックスの測定を実施した。イネ生育初期のメタンフラックスは、施肥条件に比べて無施肥条件で高かった。また、採取した根の嫌気的窒素固定活性も無施肥条件で高くなる傾向が認められた。メタンフラックス、窒素固定活性と施肥条件の関係には品種による違いがあり、イネの表現形質と遺伝形質の双方が、根圏微生物に影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
圃場でのイネ栽培試験では、当初予定の100品種からGWASの信頼性の向上を目指して120品種に増やし、合計1,440(120品種[3反復]、2栽培条件[施肥・無施肥]、2生育期[栄養成長期、生殖成長期])の試料を確保することができた。また、多検体のイネ試料から高効率で核酸を抽出・精製する方法を開発できた。これにより、当初は得られた生育試験の結果をもとに微生物群集を解析する検体を選抜することを想定していたが、GWASに供するための微生物叢のデータを確保することが可能になった。その分、研究経費の範囲ですべてのデータを取得するためには、委託分析ではなく代表者所属機関にてシークエンス解析を実施する必要が生じたため、そのプロトコルの立ち上げが新たに必要となった。 ポット栽培試験では、無施肥条件でメタンフラックスが上昇する、根の窒素固定活性が向上するなどの根圏環境の還元化に関連する微生物活性が品種によって異なることが明らかとなった。水稲品種の表現型、遺伝型と機能微生物群集との関係については遺伝子の発現解析が重要であるため、現在RNAを対象として窒素固定細菌の解析を進めている。文献調査によって、これまで土壌窒素固定微生物群集の分子生物学的解析に用いられてきたPCRプライマーの網羅性に疑義が生じたため、現在それに代わるプライマーの選定と解析手法の確立に着手している。 以上のように当初の研究計画をさらに充実するための準備が進みつつあるが、その分微生物叢の分析については一部遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度採取した根試料を対象に微生物群集の解析をさらに進める。特に、本年度は未着手であった真核微生物群集についても同時に進める。また、微生物叢とイネ遺伝形質との関係を解析するに先立ち、イネの地上形質の解析結果をもとにGWASを実施する。 初年度に引き続いて圃場でのイネ120品種の栽培試験を実施し、2年分の生育データと根試料を得る。また、水稲の遺伝型・表現型と根圏微生物群集との関係に及ぼす土壌タイプの影響を解析するため、土壌型の異なる水田土壌を入手しポット実験を実施する。
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