研究課題/領域番号 |
20H02891
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
樋口 恭子 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (60339091)
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研究分担者 |
齋藤 彰宏 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (10610355)
鈴井 伸郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員 (20391287)
栗田 圭輔 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (10757925)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光化学系 / 鉄 / オオムギ / QTL解析 / ライブイメージング |
研究実績の概要 |
(1)PIUE(光合成鉄利用効率)を指標としたQTL解析: ハイスループットなPIUE評価手順を確立し、F2集団から約100系統について鉄欠乏時PIUEを求め、ゲノムDNA抽出用の試料を凍結保管している。F2集団の草型や鉄欠乏時PIUEは親品種であるサラブ1もしくはムサシノムギと同等のものから中間型のものまでさまざまであり、交配ができていることが確認できた。鉄欠乏時PIUEは親株サラブ1よりも高いものや、親株ムサシノムギよりも低いものも存在した。QTL解析の精度を高めるため、次年度さらに約100系統を解析したのち、GRAS-Di解析を外部委託で行う。 (2)葉への鉄流入速度の解析: 令和2年度末までに完了したライブオートラジオグラフィー実験に加え、SUF経路遺伝子の発現解析を行ったデータを加え、論文投稿、受理、刊行された。 (3)オオムギ光化学系の品種間差: 凍結融解によりチラコイド膜を脆くしてから抽出して行ったウエスタン解析、また生葉から抽出したチラコイド膜のBN-PAGEにより、鉄欠乏に非常に強い品種サラブ1と強い品種エヒメハダカ1は光化学系タンパク質の編成に違いがあることが示唆された。すなわち、オオムギの光化学系が鉄欠乏に順応する機構は複数あり、品種によりどの機構に依存して順応するのかが異なることがさらに明確になった。 (4)オオムギ特有のアンテナタンパク質HvLhcb1.12の解析: オオムギ形質転換に必要なオオムギ未熟胚を人工気象器内で通年で取得する栽培法を確立した。イネ中でHvLhcb1.12の機能を解析するための、イネ内在性OsLhcb1ノックアウトイネを作出するため、イネのゲノム編集作業を遂行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QTL解析は、F2集団で連続的に大きく異なる表現型が観測されており、十分な規模のデータが取れると見込んでいる。 ライブオートラジオグラフィーによる鉄流入速度の算出により、鉄獲得能力に依存しない鉄欠乏耐性品種サラブ1が存在することが明らかになり、これを論文として刊行した。 サラブ1は鉄獲得能力ではなく、特徴的な光化学系の編成により鉄欠乏に順応できることが示唆されたが、その再現性を得るとともに、光化学系機能の計測結果と関連付けて考察する必要がある。 研究室移転後に形質転換イネ作出の効率が低下しており、ゲノム編集イネの作出が遅れているが、原因追求と改善を行っており、次年度にはHvLhcb1.12の解析に必要なイネが得られると見込んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
QTL解析については、十分な数のF2個体のPIUEを算出したうえで、葉の鉄含量が極端に高いもの、極端に低いものを除外してGRAS-Di解析を行うことにより、根からの鉄の獲得にかかわる遺伝子ではなく、葉緑体内でPIUE向上に寄与する遺伝子を絞り込めると期待できる。 QTL解析の親株であるサラブ1とムサシノムギの間で、光化学系タンパク質複合体の組成、および光化学系I、光化学系IIの機能の比較解析を進め、QTL解析で絞り込まれた遺伝子の機能の推定が円滑に行われるようにする。 サラブ1とムサシノムギの間で光化学系タンパク質複合体の組成を比較するためのBN-PAGEの条件を最適化することで、HvLhcb1.12導入形質転換イネの光化学系タンパク質複合体の解析も促進する。
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