研究課題/領域番号 |
20H02893
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吹谷 智 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (10370157)
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研究分担者 |
後藤 恭宏 九州大学, 医学研究院, 助教 (20558358)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ビフィズス菌 / トランスクリプトーム / 腸内細菌叢 / RNA-Seq / 選択的回収 |
研究実績の概要 |
1. 細胞表層にペプチドタグを提示したBifidobacterium longum 105-A株の構築 ビフィズス菌の糖質ABCトランスポーターの基質結合タンパク質であるGltAのC末端側(細胞外へと露出する)に,選択的な回収に必要な4種類の候補ペプチドタグ(Strep-TagII, FLAG, HA, Myc)を付加したタグ融合GltAを発現可能なプラスミドを構築した.これらをB. longum 105-A株に導入し,4種類の表層タグ発現株を構築した. 2. 表層タグ発現105-A株の培養菌体を用いた回収方法の検討 ①RNA固定化の処理方法の検討とRNAの品質評価:市販のRNA固定化処理試薬を始めとした4種のRNA固定化溶液をテストした.培養菌体に固定化処理を施したのち,Total RNAを抽出し,バイオアナライザー(Agilent) を用いてRNAの品質(分解の度合)を評価した.その結果,RNAprotect Bacteria Reagent (QIAGEN) またはBacterial isolation buffer (Nobori et al., PNAS, 2018)を用いることで,RNAの品質を高く保つことができることが明らかになった. ②表層タグ発現株におけるタグ発現の検証:培養した表層タグ発現株菌体の全タンパク質に対して,各タグに特異的に結合する分子または抗体を用いて,ウェスタンブロット解析を行った.その結果,4種類のタグ全てがGltAとの融合タンパク質として発現していることが確認された.次に,表層タグ発現株を培養し,免疫蛍光染色を行い,蛍光顕微鏡を用いて細胞表層へのタグの提示を評価した.その結果,Strep-TagII発現株が最も高いタグ検出率を示したことから,4種の中でStrep-TagIIが最も高い割合で細胞表層へ提示されていることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は新型コロナウイルス感染症の発生と拡大により,研究活動を停止せざるを得ない期間が複数回あったが,研究期間を延長することで,おおむね計画に近い進捗を達成することができた.本研究は「特定の腸内細菌の選択的回収」というこれまであまり試みられていない実験系の確立を目指しているため,各段階で慎重に確認をしながら進めていく事が重要である.その面で,今年度の研究で4種類のタグの発現と細胞表層への提示が確認できた点は,課題達成に向けて重要な成果と言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の研究で細胞表層へのタグ発現株が構築され,免疫蛍光染色の系が確立されたので,次年度は細胞の回収条件を検討する.まず表層タグ発現株単独での回収条件について検討するが,腸内細菌叢からの回収の前段階として,複数の腸内細菌種を用いた人工腸内細菌叢を構築し,他の腸内細菌が共存する状態で,in vitroで表層タグ発現株の回収をテストする.これにより,腸内細菌叢からの回収に向けて,十分な条件検討を行う事が必要であると考える. 他の腸内細菌存在下での回収率を評価するためには,FISH法によるB. longum 105-A株の検出が必要になるが,我々は過去の研究でFISH法によるビフィズス菌の検出系を確立しているので,スムースに対応可能である (Dinoto et al., Appl. Environ. Microbiol., 2006). また,腸内でのトランスクリプトームを明らかにするための比較対象として,培養菌体のトランクリプトームデータを取る必要がある.B. longum 105-A株のマウス腸内への定着系では,1-kestoseを飼料に添加しているため,1-kestose存在下で培養したB. longum 105-A株菌体を用いてRNA-Seq解析を行う必要がある.
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