研究課題
我々は糸状菌細胞壁の不溶性多糖α-1,3-グルカン(AG)と水溶性ガラクトサミノガラクタン(GAG)が菌糸接着因子であることを発見した。しかし、菌糸接着を制御するAG及びGAG糖鎖の化学的特性と糖鎖間の相互作用の関係性は不明である。本研究では、分子量の異なるAG及び分子量と電荷の異なるGAGを発現する株を用いて菌糸接着能を評価すると共に、各株より精製した糖鎖を用いた糖鎖間の相互作用をin vitroで定量解析し、菌糸接着の分子機構の統合的理解を図る。1)AG合成関連遺伝子改変株のAG分子量の決定と各株の菌糸接着能を測定する。(阿部,吉見[研究支援者])~A. nidulans amyD遺伝子高発現株のAG分子量は、野生型株のAG分子量より小さいことを明らかにした。AgtAのGPIアンカー削除変異体(AmyDΔGPI)発現株では、AmyDΔGPIが菌対外に分泌されAG分子量が低下しないことから、AmyDが細胞壁で機能することを示した。野生型株に比較して、amyD高発現株ではAG量が1/3以下で分子量も低下して菌糸が分散した。AmyDホモログの麹菌AgtAをピキア酵母で発現精製し、酵素学的解析を行った結果、AG中のスペーサーα-1,4結合を切断し、分子量低下に寄与する推論された。麹菌agtAをA. nidulansで発現すると、AG分子量が低下した。2)AG合成関連遺伝子改変株から精製したAGを結合した微粒子を作製し、その粒子を用いたAG糖鎖間、AG-GAG糖鎖間の相互作用を定量化する。(阿部)~AG吸着粒子の選定と吸着条件の探索を行って、ODS粒子を選択した。3)GAG合成関連遺伝子改変株から精製したGAGを結合した微粒子を作製し、その微粒子を用いてGAG糖鎖間、GAG-AG糖鎖間の相互作用を定量化する。(阿部)~2)の実験に手間取り、GAGの分離精製に実験が留まった。
3: やや遅れている
1)AG合成機構に関する解析は、AG合成関連遺伝子の高発現変異体、遺伝子破壊株のAG分子量解析、菌糸先着解析を中心に順調に進展している。特にGPIアンカー型のα-アミラーゼ A. nidulans AmyD及びそのホモログである久慈欽菌AgtAがAG中のスペーサーであるα-1,4 結合をendo型に切断することで分子量を制御することを示し、論文出版に至った。2)精製AGおよびGAGを被覆した粒子による糖鎖相互作用の研究に関しては、AG吸着用の粒子選択と吸着条件の探索に手間取ったが最終的にODS粒子の選択に至った。そのためGAG粒子の製作は遅れているがGAG精製法は確立している。3)一方で、細胞膜画分を用いたAG生合成のin vitro解析系の構築を試みてきたが、多数の条件を検討したにも拘らず有意な活性検出に至らなかった。この項目に関しては、中止し1)、2)に集中する。
1)AG合成関連遺伝子改変株のAG分子量の決定と各株の菌糸接着能を測定する。(阿部,吉見[研究支援者])~A. nidulansのAgsB/AgsA変異体を用いたAG分子量解析によるAG合成機構の解析を行う。AgtA/AnyD変異体を用いたAG分子量解析によるAG分子量制御機構の解析を行う。これらの結果を統合して、AG合成機構と菌糸接着の関係を統合的に理解する。2)AG合成関連遺伝子改変株から精製したAGを結合した微粒子を作製し、その粒子を用いたAG糖鎖間、AG-GAG糖鎖間の相互作用を定量化する。(阿部)~分子量の異なるAGを被覆したODS粒子を用いて、粒子凝集を定量化し、AG分子量とAG糖鎖、AG-GAG糖鎖の相互作用の関係を明らかにする。3)GAG合成関連遺伝子改変株から精製したGAGを結合した微粒子を作製し、その微粒子を用いてGAG糖鎖間、GAG-AG糖鎖間の相互作用を定量化する。(阿部)~分子量・電荷の異なるGAGをイオン交換粒子に吸着させて、GAG被覆粒子の凝集及びGAG被覆粒子とAG被覆粒子の凝集を定量化する。その結果から、GAG分子量・電荷と糖鎖間の相互作用の関係を明らかにする。
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