研究課題/領域番号 |
20H02897
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
本郷 裕一 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (90392117)
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研究分担者 |
山田 明徳 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40378774)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共生 / 原生生物 / ゲノム |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、未培養原生生物(単細胞真核生物)の1細胞ゲノム解析手法の確立である。環境中には多様な原生生物が生息するが、未培養種も多く、それらの生理・生態は未知である。本研究ではシロアリ腸内原生生物群集を材料とするが、それらはシロアリの餌である木材の分解発酵の主要部分を担うと考えられているものの、純粋培養成功例は無く、詳細な機能は不明である。ゲノム解析を行うにしても、原生生物細胞ごとに系統が異なる可能性が高いため、単一細胞からのゲノムと(ゲノム解析補助のための)網羅的転写産物を同時に解析する必要がある。その技術的困難により、原生生物1細胞からの高完成度な新規ゲノム解読例は無く、1細胞転写産物解析も容易ではない。 2020年度(2021年度繰越含む)には、シロアリ原生生物種1細胞を物理的に単離し、同一細胞からの核DNAの全ゲノム増幅と細胞質中mRNAの逆転写及びcDNAのPCR増幅を行い、ゲノム配列再構築と遺伝子領域同定を行った。総塩基長は約150 Mb(推定完成度7割)、遺伝子数約2.8万で、100以上の糖質分解酵素遺伝子を含んでいた。これまで未知であったアミノ酸やビタミン類の合成経路なども判明しつつある。現段階で高品質の配列が取得できているが、予想した以上に異種生物の非特異的な核酸混入が見られ、その識別方法が大きな課題である。 また、原生生物には細胞内・表面に特定の細菌種が共生することが多い。これらは非特異的DNA混入とは異なり、必ず混入するものなので、あらかじめそれらのゲノム配列を取得しておくことが望ましい。そこで、同原生生物種の核を除いた部分から全ゲノム増幅を行い、まず細菌16S rRNA配列に基づく群集構造解析を行った。その結果12種類の共生細菌配列を取得した。この情報は、今後のゲノム配列解析の基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度4月から9月までコロナ感染対策として出校制限と出張制限が課され、その後も研究室メンバーの出校には大きな配慮が求められたため、2020年度中は研究が大幅に遅延した。予算を繰り越した2021年度までかけて、1種類の原生生物種のゲノム・転写産物解析の予備実験を行って比較検証した上で、最も数値が良かった試料について大規模配列解析を行った。配列のアセンブルと転写産物配列情報などを基にした遺伝子領域予測を行った結果、まだショートリード配列しか得ていない段階としては悪くない数値を得ている。ただ、予想以上に環境由来DNAが多量に混入していたため、情報解析に時間を要している。 また、他の遅延要因としては、次世代シーケンサーMiSeqが故障したことと、情報解析用の高速サーバーの不調である。いずれも本予算で修理を行い、問題は解消した。
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今後の研究の推進方策 |
現在取得しているゲノム配列はショートリードのみであるが、各断片の由来を決定するためには、配列断片は長いほど良く、ナノポアによるロングリード配列取得を現在行っている。また、本研究での標的種も含めて、未培養分類群の原生生物種には参照可能なゲノム配列が全くあるいはほとんど存在しないため、ゲノム配列のみからの遺伝子予測は困難なことが改めて判明したため、転写産物配列も追加で取得する。高品質な配列が取得できたら情報解析を進め、さらに詳細な機能予測を試みる。なお、コロナ感染対策として出張が困難となったことから材料となるシロアリ種の制限を余儀なくされたため、対象とする原生生物種数の減少・変更を考慮する必要がある。
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