研究課題
分裂酵母長寿命変異株群の網羅的変異同定と機能解析について:細胞寿命の制御に関わる新規因子を探索し、その機能の解明を通して寿命制御機構に関する新規知見を蓄積する目的のため、分裂酵母の経時寿命が延長する変異株を独立に100株スクリーニングしてきた。取得した変異株について戻し交配を行い、変異を純化した後に全ゲノムシークエンス解析を行った。その結果、複数の変異株について経時寿命が延長する原因となる変異点候補を見出すことに成功した。得られた原因遺伝子の内、No.11変異株、No.7変異株の二種類に着目して、寿命延長の原因因子の同定と機能解明を行い、以下の成果を得た。No.11 変異株の解析全ゲノムシークエンス解析により確認されたcmr2における一塩基変異(cmr2-11変異と命名)を染色体上に導入したところ、野生株の経時寿命が延長した。次に、プラスミドを用いて正常なcmr2を高発現させたところNo.11変異株の長寿命は抑制されず、プラスミドを用いてcmr2-11変異遺伝子を高発現させると野生株の寿命がNo.11変異株と同程度まで延長した。この結果から、cmr2-11変異が No.11変異株における経時寿命延長の原因であり、寿命延長の表現型において顕性の変異であることが判明した。次に、原因因子Cmr2の機能について解析を行った。 その結果、No.11 変異株では、グリセロールを炭素源とする培地での生育遅延、過酸化水素感受性が、cmr2欠損株ではロテノン感受性が確認され、Cmr2とROSおよび呼吸・成長との関連が示唆された。No.7 変異株の解析全ゲノムシークエンス解析によりscw1に一塩基の変異が確認された。そこで、プラスミドを用いて正常なscw1を高発現させたところNo.7変異株の長寿命は抑制された。よってNo.7変異株における経時寿命延長の原因遺伝子がscw1であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
分裂酵母長寿命変異株群の網羅的変異同定と機能解析については、研究実績の概要にも示した通り、変異株の取得と原因遺伝子の同定ならびに機能解析が順調に進んでいる。上記以外にも、現在、4名の学生が未解析の7つの原因遺伝子候補を対象に解析を進めており、遺伝子の特定と機能解明につながる成果を得つつある。Pma1による寿命延長制御機構の解析では、Pma1阻害剤の開発を進めている。構造活性相関解析から、阻害剤としての最小単位を見出すことに成功した。今後は、阻害活性をより定量的に測定し、阻害機構を解明する為に、Pma1の精製を計画している。硫黄枯渇に応答したリボソーム発現の低下機構と寿命制御におけるリボソーム機能の解析については、ショ糖密度勾配遠心により、リボソーム画分を分画し、各種培養条件や、変異株を用いて、リボソームプロファイリングを解析する基盤が整った。
今後の研究の推進方策として、3つの研究データごとに、以下の方針に基づき進める。分裂酵母長寿命変異株群の網羅的変異同定と機能解析については、未同定の原因変異遺伝子を同定すると共に、すでに同定している遺伝子と合わせて、細胞寿命延長における機能解明を行う。Pma1による寿命延長制御機構の解析では、Pma1を精製し、現在までに得ている最小単位の阻害剤がどのように作用するのかその機構を解明する、硫黄枯渇に応答したリボソーム発現の低下機構と寿命制御におけるリボソーム機能の解析については、細胞寿命が延びる各種培養条件(硫黄源の枯渇、アミノ酸の枯渇、カロリー制限)に加え、寿命変異株や長寿遺伝子の高発現条件において、リボソームプロファイリング解析を行い、翻訳制御と経時寿命との関連を解明する。
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Autophagy Reports
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