研究課題/領域番号 |
20H02900
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
井沢 真吾 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 准教授 (10273517)
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研究分担者 |
赤尾 健 独立行政法人酒類総合研究所, 研究部門, 部門長 (50416426)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HSP78 / DUMP / mitochondria / ethanol stress / wine making / Saccharomyces cerevisiae / protein quality control |
研究実績の概要 |
高濃度エタノールストレスによる翻訳抑制下では、酵母の大部分のタンパク質の新規合成が停止する一方で、ストレス下での生き残りや適応に必要とされる一部の因子が選択的・優先的に合成される。そのため、エタノールによる翻訳抑制下でも優先的に合成されるタンパク質を同定・解析することで、高濃度エタノールストレス下での酵母の生存戦略に関する理解が深まると考えられる。本研究では、ミトコンドリアのタンパク質品質管理(PQC)に着目し、高濃度エタノールストレス下で優先的に発現するミトコンドリアPQC関連因子を探索した。酵母のミトコンドリアにはSsc1(ミトコンドリアHsp70型シャペロン)、Hsp60(4量体ミトコンドリアシャペロニン)、Hsp78(ミトコンドリアClpB型シャペロン)を主要構成因子とする専用のPQCシステムが備わっている。酵母細胞を高濃度エタノールストレスで処理した際のこれらの因子の発現量を検討し、Hsp78は翻訳抑制下でも合成され、その発現量が増加することを見出した。また、HSP78を欠損させた細胞では、高濃度エタノール処理によりミトコンドリアタンパク質Ilv2が不溶化・蓄積し、DUMP(Deposits of Unfolded Mitochondrial Proteins)の形成が促進された。また、呼吸欠損株の発生頻度も有意に増加することが確認された。以上の結果から、高濃度エタノールストレスによるミトコンドリアへのダメージに対し、酵母はHSP78の発現を誘導することで対処していることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高濃度エタノールストレス(10%エタノール)による翻訳抑制下でも優先的に翻訳される遺伝子を、HSP78をはじめ複数同定することに成功している。各遺伝子産物について、エタノールストレスへの適応過程における生理的機能を明らかにすべく、遺伝子破壊株や過剰発現株などを作成し、エタノールに対する感受性やレジリエンスなどの解析を進めている。Hsp78については実験室条件下での解析に加え、ワイン酵母株でのツールや株を構築し、白ワイン醸造過程を模した発酵試験を合成果汁で行い、DUMP(Deposits of Unfolded Mitochondrial Proteins)の形成やミトコンドリアタンパク質の変性・凝集について詳細に解析を進めている。これまでに、実験室条件下のacuteなエタノールストレスと異なり、醸造過程は徐々にエタノール濃度が上昇するタイプのストレスであり、誘導されるストレス応答が大きく異なることを見出している。 一方、6%エタノールで前処理後に10%エタノールに酵母細胞をさらした場合、高濃度エタノールに対する耐性が向上する(acquired resistance to severe ethanol stress)。この際に、発現誘導がさらに活性化される因子と、逆に発現が抑制されタンパク質レベルが低下する因子の存在を確認した。生理的役割の違いによって、高濃度エタノールストレス下で継続的に必要とされる因子と、一過的に活用された後に排除される因子があると考えられ、現在詳細な検証を進めている。また、高濃度エタノールストレスによる翻訳抑制下での優先的翻訳を可能にするRNA結合因子についても解析を進めており、高濃度エタノールストレス下とグルコース枯渇条件下での優先的翻訳に必要とされるRNA結合因子との使い分けに関しても解析を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き優先的に翻訳される因子の生理機能の解析を通じて、酵母が高濃度エタノールストレス下でどのように生き残り・適応を図ろうとしているのか、その生存戦略の解明に取り組む。特に、タンパク質品質管理(PQC)関連因子の優先的翻訳が複数確認されているので、エタノールストレス下でのproteolysisやprotein regenerationを中心に解析を進める。Proteolysisについては、比較的短期間のストレス応答ではマクロオートファジーが誘導されないのに対し、ubiquitin-proteasome systemの活性が変動することを見出しているので、proteasome構成因子の挙動についても検討を加える。また、実験室条件下でのacuteなエタノールストレスと、ワイン醸造過程のように徐々に濃度が上昇するタイプのエタノールストレスでの違いにも着目して、酵母のエタノールストレス耐性獲得機構を明らかにしていく予定である。そのほか、高濃度エタノールストレスによる翻訳抑制下での優先的翻訳を可能にするRNA結合因子についても解析を進めており、グルコース枯渇条件下での優先的翻訳に必要とされるRNA結合因子との使い分けに関しても、分子機構の解析を行う予定である。
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