研究課題/領域番号 |
20H02904
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
杉本 真也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (60464393)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 菌体外マトリクス / バイオフィルム / 黄色ブドウ球菌 / リン脂質 / リボソーム / ムーンライト機能 / 分子機構 / イメージング |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、バイオフィルム感染症の主要な起炎菌である黄色ブドウ球菌の菌体外マトリクスには、細胞質の成分や細胞膜の構成成分が含まれ、それらの一部はバイオフィルムの構造維持に極めて重要な役割を果たすことを見出した。本研究の目的は、このような生体高分子が有する本来の機能とは異なる別の機能(ムーンライト機能)を、独自に開発した解析・観察法を用いて解明することである。
2021年度は、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成における細胞外リン脂質の作用機序と黄色ブドウ球菌のバイオフィルムを効果的に殺菌する方法について検討した。具体的には、高分解能走査電子顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて、細胞外リン脂質(特にLys-PG)が黄色ブドウ球菌の細胞間を結合させる“接着剤”として機能する様子を捉えることに成功した。また、凝集した黄色ブドウ球菌の細胞表層に見られる微粒子がリン脂質分解酵素によって消失する様子をイメージングすることもできた。さらに、リン脂質分解酵素・DNA分解酵素・多糖分解酵素を含む酵素カクテルが、様々な種類の黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌臨床分離株のバイオフィルム形成を抑制し、かつ、これらの成熟したバイオフィルムを破壊できることを見出した。そして、本酵素カクテルと抗菌薬の併用効果を調べ、より効果的にバイオフィルム内の黄色ブドウ球菌を殺菌できる反応条件を見出すことができた。これらの成果に加えて、菌体外マトリクスに含まれるRNAのムーンライト機能に関する論文がnpj Biofilms and Microbiomes誌に受理された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分解能走査電子顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて、細胞外リン脂質のムーンライト機能の作用機序を推定する上で重要な知見が得られた。さらに、黄色ブドウ球菌のバイオフィルムに対する酵素カクテルや抗菌薬の効果が、バッファーの組成や作用させるタイミングによって大きく変化し、高い殺菌効果を発揮する条件を見出すことができた。細胞外RNAのムーンライト機能に関する成果については、npj Biofilms Microbiomesに受理された。以上のことより、本研究課題が順調に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、以下の3点について検討する予定である。
1. バイオフィルムにおける細胞外リン脂質の局在の解析:バイオフィルム内部での細胞外リン脂質の三次元的な局在を独自に開発したバイオフィルム透明化法を用いて調べる。細胞膜と細胞外リン脂質の成分はほぼ同じであることから、単に細胞膜親和性の蛍光プローブを用いて染色するだけでは、これらを識別することは難しい。そこで、バイオフィルムを膜親和性の蛍光プローブであるFM1-43で染色し、菌体と細胞外リン脂質からなる構造体を染色する。その後、FM1-43とは異なる励起・蛍光波長を持つ蛍光標識抗体で黄色ブドウ球菌の細胞を染色し、共焦点レーザー顕微鏡などを用いて観察する。それにより、菌体と細胞外リン脂質を識別することが可能になると期待される。 2. 酵素カクテルと抗菌薬の併用によるバイオフィルムの殺菌法の開発:より生体内に近い条件(例えば、PBSに10%非働化FBSを添加した溶液中など)でリン脂質分解酵素・DNA分解酵素・多糖分解酵素を含む酵素カクテルと抗菌薬(ゲンタマイシンやセファゾリンなど)の併用効果を調べる。また、MSSAおよびMRSAを含む複数の黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌に対する殺菌効果についても検討する。 3.リボソームとその構成因子のムーンライト機能の解析:黄色ブドウ球菌の細胞内からリボソームを精製し、黄色ブドウ球菌バイオフィルム低形成株に対するバイオフィルム形成促進効果と作用機序を調べる。
|