暗嫌気条件のラン藻(シネコシスティス)はグリコーゲンを解糖系によって異化し、ATPを得る。解糖系で生じる還元型補酵素は、電子を水素・乳酸・ジカルボン酸に受け渡し解糖系に必要な酸化型補酵素を補充する。 本年度は補酵素の酸化還元バランス、ATP生産、グリコーゲン消費および発酵産物の量の関係を、野生株と遺伝子操作株についての定量で明らかにした (Akiyama & Osanai 2023)。この研究で、発酵遺伝子の転写量変化が補酵素の酸化還元状態と発酵経路のバランスを変化させることが示された。 また、ラン藻の暗嫌気条件でのタイムコースのトランスクリプトーム解析から、水素発酵遺伝子(hox)は暗嫌気条件移行後一過的に発現上昇し、ジカルボン酸生産の鍵酵素のリンゴ酸脱水素酵素(mdh)は恒常的な発現上昇を示した。このことからラン藻は実際に発酵遺伝子の転写制御による発酵経路の調節を行うことが示された。 次に、hoxが代替シグマ因子SigE依存かつ暗嫌気条件下でのみ転写されるメカニズムを、転写関連因子(SigE及び転写因子cyAbrB2)の暗嫌気条件下での局在解析により明らかにした。結果、cyAbrB2は明好気条件下ではhoxプロモータ領域に結合してSigEの結合を阻害し、暗嫌気条件下ではcyAbrB2の局在が変化し、hoxプロモータにSigEが結合し転写されることがわかった。また、ゲノムワイド解析からcyAbrB2はラン藻の核様体結合タンパク質(NAPs)であると判明した(Kariyazono & Osanai 2024)。cyAbrB2が酸化還元バランス等により修飾されるという先行研究と合わせて、cyAbrB2が低酸素シグナルを受容することでSigEの暗嫌気特異的な転写が達成されることが明らかとなった。 本研究はラン藻のNAPsについての最初の知見で、様々な環境変化に対してグローバルな転写調節を行う可能性があり、新たな研究分野の端緒を開いたと言える。
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