研究実績の概要 |
クエン酸高生産糸状菌Aspergillus tubingensis WU-2223Lを供試菌として効率的なゲノム編集技術を確立し(I. Yoshioka, and K. Kirimura, J. Biosci. Bioeng., 131 (6), 579-588 (2021))、有機酸輸送体遺伝子の機能解析に応用した。ゲノム編集技術を用いて、ミトコンドリアに局在する有機酸輸送体タンパクをコードする遺伝子の機能解析を実施し、クエン酸生産に関与する輸送体遺伝子を特定することに成功した(論文投稿中のため詳細省略)。また、細胞質から細胞外(培養液)へクエン酸を排出するタンパクCEXAについて機能解析を進めた。供試菌はグルコースを炭素源とした場合に2%(v/v)メタノールの培地への添加によってクエン酸生産量が増大する、いわゆるメタノール効果を顕著に示す菌株である。メタノール効果は1940年代に見出されていたが、その本質は不明なままであった。申請者はメタノール効果の1つの標的がCEXAをコードする遺伝子cexAで、この遺伝子を高発現させればメタノール非存在下でもクエン酸生産量が高いクエン酸生産糸状菌が作製できるとの作業仮説を立て、これについて検証した。まず、CEXAをコードする遺伝子cexAのノックアウトによってクエン酸生産能を欠失した株を作製した。つぎに、これを宿主として、ゲノム編集技術によりtef 高発現プロモーターの下流にcexAを配置してcexA高発現株を作製し、クエン酸生産能力を検討した。当該高発現株は、メタノール非存在下でグルコースを炭素源として(親株である)WU-2223L株より高いクエン酸生産量を示した(論文投稿中、数値省略)。すなわち、予想通り「メタノール効果非依存型」のクエン酸生産糸状菌の作製に成功し、約80年前からの謎であったメタノール効果の本質を明らかにした。
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