昨年度に継続してミトコンドリアに局在する有機酸輸送体遺伝子の解析を実施した。クエン酸高生産菌Aspergillus tubingensis WU-2223Lにおいて7つの輸送体遺伝子をそれぞれノックアウトした株において2つのクエン酸輸送系(COCとCTP)を含む種々の輸送体遺伝子の転写量が変化することが確認された。一方で、サイトゾルから細胞外へのクエン酸排出タンパク遺伝子cexAを高発現させると、クエン酸高生産に寄与するCOC輸送体遺伝子の転写量が減少し、CTP輸送体遺伝子の転写量は増大することを見出した。すなわち、各輸送体遺伝子は複雑に協調して発現しており、サイトゾルやミトコンドリアの有機酸の濃度がそれに寄与する可能性を見出した。以上より、前年度の結果と合わせて輸送に着目したクエン酸生産機構とそれに基づく高生産株育種の方針を明確にすることができた。つぎに、液体培養に適した本研究の供試菌WU-2223L株と対照的に固体培養に適した株であるAspergillus lacticoffeatus WU-2020株について高品質のゲノムを取得し、各高生産菌の性能(特長)およびクエン酸高生産菌の共通機構を決定するために必要とされる精密なゲノム情報を公開した。一方、LC-MS/MS分析による代謝産物解析とゲノムに基づくカビ毒生合成クラスタの遺伝子解析を組み合わせることで工業的なクエン酸生産菌の安全性を評価する手法を考案した。本法に基づいてWU-2223L株がカビ毒非産生の安全なクエン酸生産菌であることを明らかにした。 以上より、本年度は有機酸輸送に着目したクエン酸の生産機構を明らかにしたのみならず、異なる特徴を有するクエン酸高生産菌のゲノム解析の実施や生産菌の安全性の検証手法の確立を通じて、工業的なクエン酸生産菌の評価方法と育種法を確立した。
|