研究課題/領域番号 |
20H02915
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久米 一規 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 准教授 (80452613)
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研究分担者 |
原 裕貴 山口大学, 大学院創成科学研究科, 講師 (80767913)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞核 / サイズ恒常性 / 分裂酵母 / 線虫 |
研究実績の概要 |
真核生物において、ゲノムDNAを収納する核の空間サイズは細胞サイズと比例関係を示すことが報告されており、細胞増殖時において核サイズは厳密に制御されている。しかしながら、当該制御機構の実体については不明な点が多く、生物学における大きな謎である。本研究は、モデル生物である分裂酵母と線虫を用いて、細胞レベルと個体レベルにおける、(1)核サイズ恒常性維持機構の全容解明と(2)核サイズ恒常性維持の生理学的意義の解明を目的とする。以下に2021年度に実施した(1)と(2)の解析から得られた成果を記す。 (1)核サイズ恒常性維持機構の全容解明:分裂酵母を用いた解析から、核サイズ恒常性の維持において中心的な役割を担う核膜タンパク質Lem2と相互作用する複数の分子についての遺伝学的解析を実施した。相互作用する分子の中から、核サイズ恒常性維持においてLem2の上流で機能する分子を絞り込むことができた。今後は当該分子によるLem2の制御機構についての詳細な解析を進める。線虫の解析から、核サイズの観察及び定量のためのシステム条件を至適化することができた。その結果、分裂酵母の核サイズ恒常性に関わる主要遺伝子の相同遺伝子のRNAiノックダウン株の構築を進め、予備的ではあるがいくつかの株を用いた観察を開始した。 (2)核サイズ恒常性維持機構の生理学的意義の検証:分裂酵母の複数の核サイズ増加変異体を用いて、核サイズの恒常性が破綻した細胞におけるトランスクリプトーム解析を実施した。そして、転写レベルで共通して変化がみられる遺伝子群を特定することができた。今後の検証により、核サイズの恒常性破綻がもたらす細胞機能への影響についてのさらなる解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核サイズ恒常性維持機構の全容解明:分裂酵母を用いた細胞レベルでの生化学的解析により同定したLem2と相互作用する複数の分子について、遺伝学的解析を実施して、Lem2の上流で機能する分子を絞り込むことができた。そして、Lem2を介した核サイズ恒常性維持機構の主要分子経路の実体がみえてきた。当該経路における上流分子とLem2との機能関連性の解析を進めることにより、Lem2の制御を介した核サイズ恒常性維持機構の分子メカニズムの解明が期待できる。また、線虫の解析から、個体レベルでの核サイズの観察及び定量のためのシステム条件を至適化することができた。そして、分裂酵母の核サイズ恒常性に関わる主要遺伝子の相同遺伝子を対象にしたRNAiノックダウン株の構築を進め、いくつかの株を用いた観察を開始することができた。 核サイズ恒常性維持の生理学的意義の検証:分裂酵母において核サイズ恒常性が破綻した複数の株を用いて、トランスクリプトーム解析を実施した。その結果、複数の核サイズ変異体において、転写レベルで共通して変化がみられる遺伝子群を特定することができた。この結果をベースにした今後の検証により、核サイズの恒常性破綻がもたらす細胞機能に与える影響を明らかにするためのさらなる解析が期待できる。また、昨年度特定した核サイズ恒常性維持が破綻した細胞でみられるいくつかの細胞内構造の異常について、トランスクリプトーム解析の結果から、転写レベルでの異常が原因である可能性が示唆された。今後この可能性についての検証を進める。このように当初の計画通り、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
核サイズ恒常性維持機構の全容解明:2021年度、分裂酵母を用いた細胞レベルでの解析を行い、Lem2と相互作用する複数の分子の中から遺伝学的解析により、核サイズ恒常性維持に重要でかつLem2の上流で機能する複数の分子を明らかにした。今後は、上流分子によるLem2の制御を介した核サイズ恒常性維持機構の全体像を明らかにするとともに、当該制御の分子メカニズムの解明を目指す。Lem2の上流で機能する分子を欠損させた細胞における核サイズの恒常性を調べるとともに、Lem2の細胞内局在やタンパク質量等の変化について詳細な解析を行う。また、小胞体に局在してLem2と協調して機能するLnp1についてもLem2と同様、相互作用する分子を探索して、核-小胞体間での膜輸送制御に関わる因子の選抜を行う。さらに、核サイズ制御の普遍性を検証するにあたり、線虫のLem2およびLnp1の相同遺伝子を酵母細胞内で発現させて、核サイズ制御において同様の機能を有するかどうかを検証する。Lem2やLnp1の解析に加え、核サイズを規定するセンサータンパク質の探索を行う。核肥大化の原因となる核内に蓄積したタンパク質の中に核サイズを規定するセンサータンパク質が存在すると予想して、当該分子を探索する。 個体レベルでの解析については、昨年度に引き続き、線虫を用いた解析を行う。分裂酵母の核サイズ恒常性維持に関わる遺伝子のノックダウン株を構築して、胚発生時の核サイズを調べることで、普遍性を検証する。 核サイズ恒常性維持機構の生理学的意義の理解:これまでに研究代表者が選抜した分裂酵母の核サイズ変異体を用いて、核サイズの恒常性の破綻が細胞レベルの機能に与える影響を調べる。昨年度に実施したトランスクリプトームの結果と各種ストレス感受性、細胞内構造の観察結果等を精査して、核サイズ恒常性維持と細胞機能との関連性についてさらなる解析を進める。
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