真核生物の核サイズは細胞サイズと連動して厳密に制御されており、核と細胞の体積比は一定に維持されている。しかし、当該制御の分子機構や重要性は不明である。本研究では、モデル生物の分裂酵母と線虫を用いて、(1)核サイズ恒常性維持機構の全容解明と(2)当該機構の生理学的意義の解明を目指した。 (1)分裂酵母を用いて、核サイズの恒常性維持に重要な核膜タンパク質Lem2に焦点をあて、Lem2による核サイズ恒常性維持機構の全体像解明のために、Lem2を制御する上流因子の解析を行った。昨年度までに選抜した複数の上流因子について、過剰発現株および上流因子をLem2に強制的に結合させた株を構築して、Lem2の機能および核サイズへの影響を調べた。その結果、Lem2の核膜での機能に重要でかつ核サイズに影響を及ぼす因子(主要経路)を特定できた。この成果は論文として報告予定である。さらに、Lem2の下流分子を探索し、その解析から、小胞体の構造変化や脂質代謝に関わる因子がLem2の下流で機能することがわかった。また、分裂酵母の結果の普遍性検証や新規知見をえるために、線虫のホモログやLem-2と相互作用する遺伝子群を分裂酵母細胞で発現させ、核サイズへの影響を調べた。その結果、Lem-2について普遍性が確認できたことに加え、いくつかの遺伝子について、発現量の変化に応じて核サイズが増減することがわかった。これについては新規の核サイズ制御因子の可能性があり、今後新たな研究課題として展開する予定である。 (2)昨年度の核サイズ増加変異体の遺伝子発現解析により、核サイズ増加と脂質代謝異常との関連性が示唆されたことを踏まえ、脂質代謝に関する阻害剤や遺伝子欠損株を用いた解析を行った。その結果、複数の核サイズ増加変異体は、貯蔵脂質の代謝に関わる遺伝子群と合成致死性を示すことがわかった。今後更なる解析を展開する予定である。
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