研究課題
一年目の本年度は、栽培イネ自然系統と野生イネのゲノム比較に基づいたシス・トランス両面からの制御機構の解明として、(1)Oryza 属クラスター領域内の制御配列(シス因子)の解析として、作出を進めているピマラジエン合成酵素遺伝子OsKSL4 の上流保存領域をCRISPR/Cas9 によるゲノム編集で欠損したシス配列欠損イネ系統のモミラクトン生産能と遺伝子発現プロファイル解析を進めた。ゲノム編集個体のT1世代について、OsKSL4遺伝子上流域に導入された欠損変異の詳細を調べたところ、翻訳開始点の上流1kbから2kb領域の約1300bpを欠損した個体を複数確認した。Cas9欠落の確認も行い得られたホモ個体の葉身を用いて各種解析を行ったところ、モミラクトンの蓄積に変化は認められなかったが、OsKSL4遺伝子発現の誘導タイミングが遅れる現象を見出した。本年度後半に計画していたフィリピン国際稲研究所の約3000 種の一塩基多型(SNP)情報をもつイネ系統の代謝物分析については、海外出張の自粛のため延期した。その代わり、国内で入手可能な野生イネや世界のイネ系統、栽培イネ品種間差について、モミラクトンに着目しLC-MSMSで分析・検討したところ、野生イネでは誘導蓄積するモミラクトン量が少ないこと、栽培イネの品種の中には、モミラクトンAとBの量比がモデル系統の日本晴と大きく異なる品種が存在する事を突きとめた。(2)イヌビエ・ハイゴケなど進化的に離れたモミラクトン生産植物におけるモミラクトン生合成経路の解明と制御因子の同定では、ハイゴケのモミラクトン生合成経路の最終ステップとして未解明のモミラクトンB合成酵素の特定を進めるため、塩化銅誘導性を示すP450遺伝子の数種について全長cDNAを取得し、ベンサミアナタバコでのアッセイに用いるためのpEAQベクターへの導入を進めた。
3: やや遅れている
研究実績の概要で示したとおり、初年度に計画していた実施内容の中で、国際稲研究所の3000イネ系統を用いた解析は行うことができず、また、ハイゴケのモミラクトン生合成遺伝子のプロモータ解析についても着手できなかった。一方で、ゲノム編集個体の解析とハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子の特定については、順調に進めることができ、一定の進捗を得た。しかし、最終段階で期待している成果を考えると、現段階では全般的にやや遅れていると言わざるを得ない。その原因としては、第1に研究活動の制限のため、通常の50%以下程度の研究しか実施出来ていないことが上げられる。一方、出張ができない分、オンラインによる研究打合せや情報交換は通常よりも活発に行うことができたので、次年度からの研究遂行に盛り込めるアイデアも得ることができた。
次年度は、まず、OsKSL4プロモーター領域のゲノム編集株の解析を本格的に展開する。特に、OsKSL4遺伝子の発現プロファイルに変動が認められたことから、その変化について、慎重かつ精密に調査する事とする。例えば、イネの出穂時期の成長にあわせてモミラクトンの生産誘導が起こることがわかっているので、花芽・可食部などの組織を対象とした、組織特異的なOsKLS4遺伝子の発現およびモミラクトンの蓄積状態の検討を進める。国際稲研究所の3000イネ系統の分析については、状況に応じて出張を計画するが、種子の購入などにより、一部の系統から分析を徐々に開始する事も計画する。ハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子の特定については、コンストラクトの完成を待ちベンサミアナタバコでのアッセイを開始する。ファイトアレキシン生産の鍵転写因子であるDPFの機能解析については、コムギ無細胞発現系で合成したDPFタンパク質を用いたゲルシフトアッセイを計画し、モミラクトン生合成遺伝子クラスター内に存在するDPFによる転写活性化に必要なシス配列への直接的な結合の有無を明らかにしたい。
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Plant & Cell Physiology
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