研究課題
研究2年目の本年度は、1年目の流れを汲んで主に以下の3つの研究項目について進めた。(1)Oryza 属クラスター領域内のピマラジエン合成酵素遺伝子OsKSL4の上流保存領域に存在する制御配列(シス因子)を欠損したゲノム編集イネ系統を用いて、モミラクトン生産能と遺伝子発現プロファイルの変化について、葉身だけで無く、花芽・可食部の更なる追究を行う予定であったが、実験担当者の入国が結局1年間遅れてしまったため、予定した計画を実施できなかった。そのため、解析に用いる次世代系統を増幅するに留まったが、OsKSL4活性を欠損したゲノム編集株を新たに入手し、そのモミラクトン欠損を確認し、今後の解析における比較対象とする事にした。結果、次年度に検討を開始できる十分な種子を得た。(2)Oryza 属に保存される関連転写因子(トランス因子) の機能解析としては、モミラクトン生産制御因子のDPF に着目し、その上流シグナルの特定に着手した。その結果、ジャスモン酸シグナル経路のマスター因子として働くMYC2発現抑制株の解析から、DPFの発現がMYC2依存的であることを突きとめた。さらに、MYC2下流で働き、DPFを介したモミラクトンの生産誘導に関与する可能性を持つ新たな制御因子をリストアップする事ができた。これにより、モミラクトン生合成遺伝子クラスター制御おいて、MYC2から始まるトランス因子のカスケードの存在を示唆することができた。(3)昨年に引き続き、ハイゴケモミラクトン生合成経路の最終ステップとして未解明であるモミラクトンB合成酵素遺伝子の特定をベンサミアナタバコを用いた異種発現系を用いて検討したところ、CL1699にモミラクトンB合成活性を認め、イネに続き、ハイゴケのモミラクトン合成酵素遺伝子の同定に成功した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に引き続き、実験活動・行動制限が継続となったことで、予定していたゲノム編集株の解析が進められなかったが、来年度以降、重点的に研究を進めるための種子の増幅など、必要な準備を行なえた。国際稲研究所の3000イネ系統を用いた解析については、今後の見通しが立たないことから、一旦、計画をペンディングし、研究の後半で状況に応じて進める事とした。一方、ハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子については、ベンサミアナタバコでの発現で、上流のモミラクトンA合成に必要な遺伝子と共にCL1699遺伝子を導入したところ、モミラクトンB合成が確認され、目的の遺伝子を特定することに成功した。モミラクトン生産制御因子のDPF に着目した研究計画では、DPFを中心とした解析として上流に位置すると考えられるJAシグナル経路のマスター因子MYC2との関係を調べたところ、DPFのストレス誘導にMYC2が必須であることが示された。さらに、MYC2を起点とした転写因子カスケードによって、モミラクトン生産誘導をを担うDPFの発現が誘導される可能性をサポートする、複数の新規転写因子を見いだすことができた。このように、一部、研究計画の変更があったものの、想定以外の新しいトランス因子の発見にも成功し、全体としては概ね順調に進展していると判断する。
折り返しとなる来年度は、以下の項目を重点的に進める事で、最終年度に向け成果を期待する。まず、OsKSL4プロモーター領域のゲノム編集株については、材料と実験担当者の参画準備が整ったことから、予定通り花芽と可食部に着目した遺伝子発現プロファイリングとモミラクトンの生産性について詳細な解析を開始する。また、モミラクトン生合成遺伝子クラスター内の他の遺伝子の発現に対する影響なども検討し、クラスター領域におけるOsKSL4遺伝子プロモーターのシス因子の機能について明らかにする。MYC2依存的なDPFの発現誘導が明らかになったことから、新規に単離されたMYC2の下流に位置する転写因子について、モミラクトン生合成遺伝子クラスターの制御における転写活性化能とDPFの発現に対する影響を調べる。ハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子については、その誘導的な発現プロファイルを調べ、モミラクトンA遺伝子クラスターとの染色体上の位置関係を調べると共に、プロモータ領域を取得することで、シス配列情報を確認し、イネのホモログであるCYP76M14との間の制御様式について比較検討を行う。さらに、来年度からはシス・トランス因子の進化に関する情報を得るために、野生イネのDPFホモログについても、それらの機能同定を開始する。
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