研究課題/領域番号 |
20H02922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 憲典 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20312241)
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研究分担者 |
澤崎 達也 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 教授 (50314969)
宮本 皓司 帝京大学, 理工学部, 講師 (90721514)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モミラクトン / イネ / 生合成遺伝子クラスター / 転写制御 / 二次代謝産物 |
研究実績の概要 |
本研究課題では大きく以下の3つの項目①②③を進めている。①Oryza属クラスター領域内のピマラジエン合成酵素遺伝子OsKSL4の上流保存領域に存在する制御配列(シス因子)のゲノム編集株を用いた解析。②Oryza属に保存される関連転写因子(トランス因子) の機能解析。③ハイゴケのモミラクトン生合成制御機構の追究。各項目についての成果概要を以下に記す。 研究3年目の本年度は、主に②③の研究項目について成果を得た。 ②:Oryza 属に保存される関連転写因子(トランス因子) の機能解析としては、昨年までにDPFの発現がジャスモン酸シグナル経路のマスター因子として働くMYC2依存的であることを明らかにしてしていたが、今年度はDPFによるモミラクトン生産誘導に影響を与えるトランス因子についてMYC2レギュロンの中から絞り込みを行いいくつかの抑制因子を特定した。 ③:昨年度までにハイゴケモミラクトン生合成経路の最終ステップを担うモミラクトンB合成酵素遺伝子CpCYP761AA2(コンティグCL1699)の同定に成功したので、今年度はイネの当該遺伝子OsCYP76M14との比較から、その発現様式とモミラクトンB合成への寄与を制御の観点で調べ、ハイゴケのCYP761AA2が転写レベルで大きく誘導されることでモミラクトンBの高生産を可能としていることを明らかにした。また、本遺伝子がハイゴケの染色体上でモミラクトン遺伝子クラスターとは離れた位置に座乗する可能性をFISH法により示唆することができた。 ①:Oryza属クラスター領域内のピマラジエン合成酵素遺伝子OsKSL4の上流保存領域に存在する制御配列(シス因子)を欠損したゲノム編集イネ系統の解析においては、葉身だけで無く、花芽・可食部のサンプリングを終了し、分析の準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
③ではハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子CpCYP761AA2について、イネのオルソログであるOsCYP76M14との比較を酵素活性レベルと転写レベルで追究したところ、ハイゴケでは転写レベルでの発現誘導が、上流の遺伝子発現よりも劇的に大きくなることを突きとめた。このことからハイゴケでモミラクトンBが主要に生産されるのは、転写レベルでの制御によるところが大きいと予想された。また、染色体上でのCpCYP761AA2の位置についてFISH法をもちいて視覚的に確認することを試みたところ、モミラクトン遺伝子クラスターとは重ならない位置に蛍光シグナルを得たことから、イネと同様、モミラクトン生合成遺伝子クラスターとは異なる配置を持つことが示唆された。②では、モミラクトン生 産制御因子のDPF のモミラクトン生産誘導活性に着目し、その機能に影響を与えるトランス因子について、JAシグナル経路のマスター因子MYC2のレギュロンから探索した。その結果、DPFの活性を抑制する転写因子を特定することができた。 このように、①のシス因子の解析については次年度以降に持ち越されたものの、その他2つの研究計画においては、想定以外の新しいトランス因子の発見にも成功し、全体としては概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる来年度は、まず①について、OsKSL4プロモーター領域のゲノム編集株の花芽と可食部における化合物合成および遺伝子発現プロファイリングの詳細な解析を行う。また、プロトプラストでのレポーターアッセイの系を利用し、このゲノム編集プロモーターに対するトランス因子のエフェクター効果を明らかにする。②では、MYC2レギュロン中に、DPFによる下流モミラクトン生合成遺伝子に対する発現誘導の抑制因子を特定できたので、その作用メカニズムについてシス因子への結合とタンパク質間相互作用に注目しつつプロトプラストを用いた実験系で詳細な解析を進める。③については、ハイゴケのモミラクトンB合成酵素遺伝子とモミラクトンA遺伝子クラスターとの染色体上の位置関係について確定させると共に、これまでに得られた成果をまとめた論文作成を進める。さらに、モミラクトンB合成酵素遺伝子CpCYP761AA2のホモログが複数の蘚類で認められることから、ハイゴケ以外の蘚類についても、モミラクトン生産の有無を調べると共に、その誘導性についても追究する。
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