研究課題/領域番号 |
20H02923
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
石原 亨 鳥取大学, 農学部, 教授 (80281103)
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研究分担者 |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 教授 (70325405)
寺石 政義 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80378819)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / ケモタイプ / ナチュラルバリエーション / ファイトアレキシン |
研究実績の概要 |
イネにおける二次代謝産物の種内多様性を解明する目的で、今年度は、ジャポニカ亜種の品種日本晴とインディカ亜種の品種カサラスを用いて、蓄積量が異なる代謝産物の探索を行った。日本晴とカサラスの葉に蓄積する化合物をHPLCを用いて比較すると、カサラスに特有の化合物1が検出された。化合物1を単離した後、NMRやマススペクトルなどの機器分析を行い、1の化学構造を決定することに成功した。世界のイネ・コアコレクションを用いて1の蓄積量を調べると、インディカ亜種で大きい傾向があった。このことから、イネには、この化合物の蓄積量に関して亜種の違いを反映したナチュラルバリエーションが存在していると考えられた。 さらに戻し交配自殖系統群(BILs)や染色体断片置換系統群(CSSLs)を使用したマッピングにより、この変異をもたらす遺伝子が座乗する染色体領域を特定することができた。この領域に存在する化合物1の生合成に関与する可能性がある遺伝子をデータベースを用いて探索し、候補遺伝子をリストアップした。これらの遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法で調べたところ、3種の遺伝子がカサラスで高発現しており、1の蓄積量に関するナチュラルバリエーションに関与している可能性が示唆された。 一方、特定の品種にのみ蓄積するファイトアレキシンであるオリザラクトン(モミラクトンGから改称)については、遺伝学的手法によって蓄積量に差をもたらす原因遺伝子を明らかにするための実験を開始した。オリザラクトンを高濃度に蓄積する品種と蓄積しない品種の交配をおこないF2集団の作出を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最初の目標は、イネの二次代謝に関するケモタイプの発見である。今年度の実験によって、ジャポニカ亜種の日本晴とインディカ亜種のカサラスの間で蓄積量が大きく異なる化合物1を新たに発見することができた。この化合物は病原菌の感染や昆虫による食害とは無関係にイネの葉に構成的に蓄積する化合物である。一方、これまでに見いだされていたオリザラクトンは誘導性のファイトアレキシである。今年度の研究によって、構成的に蓄積する化合物と誘導性の化合物、それぞれ1種ずつに関するケモタイプを発見することができたことになる。この点で研究は予定通りに進捗していると言える。 化合物1に関しては、BILsやCSSLsを用いて遺伝学的解析を実施し、候補遺伝子を絞り込んでおり、次年度以降原因遺伝子を特定するための分子生物学実験に本格的に着手する。 また、オリザラクトンについては、蓄積量に品種間差をもたらす遺伝子の解明を目指して、F2集団の解析の準備を進めている。既にF1世代の種子は得られており、次年度の前半にはF2集団の解析をスタートすることができる。
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今後の研究の推進方策 |
化合物1については、原因遺伝子の候補をクローニングし、大腸菌を用いた異種発現をおこなう。これによって得られる組換タンパク質を用いて、日本晴とカサラス由来の酵素の活性を調べる。酵素活性に大きな違いが認められれば、その酵素遺伝子をコードする遺伝子がナチュラルバリエーションをもたらす原因であると特定することができる。同時に、ゲノムワイドアソシエーション解析(GWAS)などの遺伝学的解析を進める。 一方、オリザラクトンの蓄積に多様性をもたらす遺伝子に関しては、F2集団解析の準備が進行中である。まず、F2集団におけるケモタイプの分離比をもとめ、変異を引き起こしている遺伝子の数を明らかにした後、GWASやRAD-Seqなど行うことで、原因遺伝子を特定することができると考えている。
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