研究課題/領域番号 |
20H02924
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
岡澤 敦司 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (10294042)
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研究分担者 |
太田 大策 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10305659)
新間 秀一 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30515896)
園田 素啓 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (90314400)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 寄生植物 / 炭素収奪 / メタボローム / 質量分析イメージング / セクレトーム |
研究実績の概要 |
ハマウツボ科の根寄生雑草は、宿主植物が光合成によって固定した有用炭素資源を、利用価値のないバイオマスに再変換してしまう点にある。そこで、本研究では根寄生雑草による宿主からの光合成産物収奪(炭素収奪)の代謝メカニズムを明らかにすることを目的とした。そのために、(1)C-13メタボローム解析による根寄生雑草内の炭素収奪代謝マップの作成、(2)質量分析イメージング等による炭素収奪組織の可視化及び(3)セクレトーム解析による炭素収奪に関わる蛋白質分子の同定を行うという実験計画を立てた。 当該年度は、(1)根寄生雑草を人工的に宿主に寄生させることの出来るライゾトロン実験系を確立し、宿主であるムラサキツメクサの葉(ソース器官に該当)及び根寄生雑草ヤセウツボ(シンク器官に該当)のメタボローム解析を行った。その結果、根寄生雑草に特徴的な代謝物の特定に至った。(2)宿主より収奪した炭素の貯蔵形態であることを見出していたプランテオースについて、種子中の分布を質量分析イメージングにて可視化することに成功した。プランテオースは、種子中では胚には分布しておらず、周囲の内胚乳、外胚乳及び種子に蓄積していた。宿主ではプランテオースは生合成されていないため、種子に蓄積しているプランテオースは宿主から収奪された炭素より、根寄生雑草ヤセウツボ内で合成され、胚乳等に蓄えられると考えられた。(3)セクレトーム解析のために、より活性の強い吸器誘導物質を探索することとした。これまでに見出していたPI-28の芳香族カルボニルチオウレアを骨格として、26類縁化合物を合成した。これらの化合物の吸器誘導活性を、幼根の伸長を指標として評価したところ、いくつかの類縁体で PI-28 より強い活性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)根寄生雑草ヤセウツボ内の炭素収奪代謝マップ作成のための、サンプリング条件を確立した。宿主であるムラサキツメクサの葉及び根寄生雑草ヤセウツボの親水性(中心代謝・一次代謝)産物のメタボローム解析をGC-MSにて行った。その結果、根寄生雑草に特徴的な代謝物の特定に至った。 (2)根寄生雑草が宿主より収奪し、発芽のための貯蔵糖質として生合成、蓄積していると考えられるプランテオースの種子中の分布を質量分析イメージングにて初めて明らかにした。単離精製したプランテオースを用いて、MALDI-MS/MS分析を行い、プランテオースに特徴的なフラグメントイオンを同定した。このイオンを指標にヤセウツボ種子切片での質量分析イメージングを行ったところ、プランテオースは、胚以外の内胚乳、外胚乳及び種皮に分布しており、貯蔵糖質として用いられている想定を裏付ける結果が得られた。 (3)PI-28を含む27種類の芳香族カルボニルチオウレアについて、幼根の伸長を指標として吸器誘導活性を評価した。PI-28は1 ppm でコントロールと比較した場合に、幼根伸長が 90 % 程度に抑制される。なお、根寄生雑草の吸器は幼根の伸長が停止した後に、誘導されることが示されている。合成したいくつかの化合物は、1 ppm で幼根伸長が 20 %程度にまで抑制されたことから、より強い活性を有することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)C-13で安定同位体標識を行った二酸化炭素を宿主に同化させ、この炭素が根寄生雑草にどのように収奪されるかを解析する。GC-MSを用いたメタボローム解析を行い、MS/MSスペクトルよりフラグメントイオンの構造を予測し、天然の同位体比と比較することにより、宿主に固定されたC-13がどの程度取り込まれたかを解析することで、炭素収奪の代謝マップを作成する。 (2)当該年度までのメタボローム解析で明らかになった根寄生雑草に特徴的な代謝物について、そのヤセウツボ中での蓄積部位を質量分析イメージングにて解析する。特に、貯蔵糖質であることを明らかにしたプランテオースに関連すると考えられる糖質に着目する。なお、プランテオースの生合成経路はいずれの植物においても明らかにされていない。 (3)吸器誘導活性の高いPI-28の類縁体を用い、ヤセウツボの吸器を誘導し、吸器誘導時により分泌される分子の網羅的解析を試みる。また、活性の高い化合物が取得できたことから、吸器形成のメカニズムについても解析を試みる。特に、活性酸素との関係に着目する。
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