研究課題/領域番号 |
20H02927
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
園山 慶 北海道大学, 農学研究院, 教授 (90241364)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | microRNA / 腸管免疫 / 腸内細菌叢 / リンパ球 |
研究実績の概要 |
本研究では、「miRNAによる遺伝子サイレンシングを介したT細胞分化の調節は、腸内細菌叢が腸管免疫のホメオスタシスに寄与する分子基盤である」という仮説を立て、以下のように検証を進めた。 1) 無菌マウスと通常マウスの大腸粘膜固有層白血球(LPL)におけるmiRNAおよびmRNAの発現プロファイルを、マイクロアレイによって網羅的に解析し、その結果に基づいてバイオインフォマティクスを用いて変化したmiRNAの標的遺伝子を予測した。その結果、腸内細菌叢の存在によって、大腸LPLにおいてmiR-200ファミリーメンバーの発現が増加し、その標的遺伝子としてBcl11b、Ets1、Gbp7、Stat5b、およびZeb1が予測された。これらの遺伝子のmRNAレベルが腸内細菌叢の存在によって低下することは、マイクロアレイおよびRT-qPCRによって確認できた。Bcl11b、Ets1、およびZeb1はIL-2をコードするIl2遺伝子の転写因子であるので、大腸LPLにおけるIL-2産生をex vivoで調べたところ、無菌マウスに比較して通常マウスで低かった。 2) マウスT細胞株EL-4にmiR-200 mimicをエレクトロポレーションにより遺伝子導入した結果、標的遺伝子であるBcl11b、Ets1、およびZeb1のmRNAレベルの低下が観察された。 3) マウス大腸LPLおよびEL-4細胞の培地に、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸および菌体成分である各種TLRリガンドを添加した際の、miR-200ファミリーの発現を調べたが、影響する因子を見いだすことができなかった。 以上のように、本年度の研究により、腸内細菌叢の存在が大腸LPLにおけるmiR-200ファミリーによる遺伝子サイレンシングを介してIL-2産生を抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的として、1) 難消化性オリゴ糖によってリンパ球で増加するmiR-141/200aの標的遺伝子を解明する、2) miR-141/200aによる標的遺伝子のサイレンシングが誘導する表現型を解明する、3) miR-141/200aを増加させる腸内細菌叢の因子を解明する、4) 腸管免疫のホメオスタシスに影響する食事要因とmiR-141/200aとの関連を解明する、の4点を掲げた。このうち、研究実績の概要に記載した通り、腸内細菌叢の存在によって増加するmiR-200ファミリーの標的を明らかにするとともに、miR-200ファミリーによる遺伝子サイレンシングによりIL-2産生が減少することを明らかにしたことから、目的1)および2)は達成できたと言える。しかしながら、やはり概要に記載したように、miR-200ファミリーの発現に影響する腸内細菌因子を見いだすことができなかったことから、目的3)は未達成であり、4)についても同様である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は概ね順調に進展している。したがって当初の計画通りに研究を推進していく。具体的には下記の通りである。 1) miR-200ファミリーの標的遺伝子についてさらに直接的に証明するために、miRNA-mRNAペアリング解析を行う。すなわち、マウスT細胞株EL-4にmiR-200 mimicを遺伝子導入した後、RNA誘導遺伝子サイレンシング複合体を形成するAgo2タンパクに対する抗体を用いて免疫沈降を行い、共沈殿するmRNAをマイクロアレイにより網羅的に解析する。 2) 本年度の研究においてmiR-200ファミリーの発現に影響を及ぼす腸内細菌因子を見いだすことができなかったことから、腸内細菌因子は腸上皮細胞を介して間接的にLPLに影響すると予測し、腸上皮細胞とLPLとの共培養を用いた解析を行う。 3) miR-200ファミリーによる遺伝子サイレンシングを介したIL-2産生抑制を個体レベルで証明する。すなわちmiR-200 mimicをマウスに遺伝子導入した際の大腸LPLにおける標的遺伝子の発現およびIL-2産生を解析する。 4) miR-200ファミリーによる遺伝子サイレンシングを介したIL-2産生抑制の生理的意義について、このことが腸内細菌の定着に寄与するという仮説を立て、マウスに外因性に投与したビフィズス菌の大腸における定着に対してmiR-200 mimicの遺伝子導入が影響するか否かを調べる。
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