研究課題
短鎖脂肪酸(SCFA)によるマスト細胞機能調節に関して、実施計画の通りGタンパク質共役型受容体(GPCR)のGPR109Aに着目した解析を行った。レトロウイルスベクターを用いてGPR109Aを過剰発現したマスト細胞を調製し、IgE依存的なマスト細胞活性化を評価した結果、脱顆粒反応が抑制され、SCFAへの感受性も亢進することが判明した。GPR109A経路が生体のアレルギー反応に及ぼす影響を明らかにするため、KitWsh/WshへGPR109A過剰発現マスト細胞を移入し、アナフィラキシー反応を評価する実験条件の検討を行った。一方、SCFAはHDAC阻害活性を有しており、この活性によってエピジェネティックな遺伝子発現制御を行う作用も発揮することが知られている。そこで、HDAC阻害剤TSAを用いてIgE依存的なマスト細胞活性化への影響を調べた結果、TSAは脱顆粒反応を有意に抑制することが判明し、SCFAのHDAC阻害活性がアレルギー反応抑制に寄与することが示された。マスト細胞が産生するPGE2がIgE依存的なアレルギー反応を抑制する可能性について、PGE2受容体の特異的阻害剤を用いた解析を行った。PGE2の受容体としてEP1、2、3、4の4種類が知られるが、マスト細胞のmRNAを測定した結果、EP3とEP4の発現が比較的高いことが確認された。マウスにIgE抗体と抗原を投与することによって引き起こす受動的な全身性アナフィラキシーのモデルを用いて解析を行った結果、EP3アンタゴニストの投与が、SCFAによるアナフィラキシー緩和を抑制する可能性が示された。腸管免疫におけるマスト細胞の機能解析に有効なツールの開発を目指し、消化管に局在するマスト細胞に特異的な遺伝子改変マウスの作出に取り組み、本年度、Mcpt2-Creマウスを得た。
2: おおむね順調に進展している
SCFAの効果がPGE2受容体EP3を介している可能性について、アナフィラキシーモデルを用いて示せたこと、SCFA受容体候補であるGPR109Aの発現上昇がマスト細胞脱顆粒反応を抑制すること、などを明らかにし、受容体特定に向けた知見を蓄積することができた。一方、レトロウイルスベクターを用いた過剰量のGPR109A発現誘導では、自然なGPR109A機能増強とは異なるartificialな状況をもたらす。また、PGE2は多様な作用を持つこと、さらに、基質となるPUFAの種類によってエイコサノイドの組成や量が変化する可能性があることなどから、全容解明に向けては分子レベル、個体レベルでの更なる解析と情報収集が必要であると考えている。
SCFAによるマスト細胞活性化抑制が及ぼす生体への有益な作用として、IgE-マスト細胞軸を最もシンプルに反映するモデルである受動的アナフィラキーを用い、その改善効果を詳細に解析してきた。一方、マスト細胞が関わる免疫応答としてアレルギー反応が代表的であるが、さまざまなサイトカインやケミカルメディエーターの供給源として、炎症反応や適応免疫の始動などにも寄与する。SCFAはエピジェネティックな遺伝子発現へも調節作用を発揮することから、マスト細胞の遺伝子発現や分化成熟など多様な影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで、炎症性疾患や自己免疫疾患のモデルを用い、SCFAがマスト細胞に作用する結果引き起こされる免疫応答の変化をより広範に解析する。さらに、細胞内シグナル伝達や遺伝子発現制御に及ぼす影響を各種阻害剤やsiRNAを用いたノックダウン、過剰発現実験などを組み合わせて明らかにしていく。概ね計画通りに進んでいるが、SCFAがマスト細胞からのIL-10分泌を促し、このマスト細胞由来IL-10がSCFAの抗アレルギー効果に寄与するという仮説に関しては、Il10-/-マウスを用いた本年度の解析からは明確な結論が得られていない。マスト細胞が産生するIL-10の生理的意義については、結合組織型マスト細胞がIL-10分泌を介して皮膚炎の緩和に寄与するという報告はあるものの、IL-10産生源としての粘膜型マスト細胞の意義、マスト細胞におけるIL-10発現誘導機構などについては多くが不明であることから、その解明も視野に入れ、消化管の免疫系疾患モデルの利用やin vitro解析も進めていく。
研究室HPのトピックス欄 https://www.rs.tus.ac.jp/chinishi/news.htmlPD-L2発現制御に関する研究成果がTOKYO MXテレビ「MEDICAL NEWS LINE」で報道ヘルスライフビジネス新聞の連載「免疫と食機能研究最前線レポート(第1回)」に記事が掲載
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