研究課題/領域番号 |
20H02940
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 恭子 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70366574)
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研究分担者 |
中西 祐輔 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (20579411)
細野 朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70328706)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
マウス繊維芽細胞株の脂肪細胞へのin vitro分化誘導系にマウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)の培養上清を添加することにより、脂肪細胞の分化・成熟が抑制された。したがって、マスト細胞が産生する液性因子を介して脂肪細胞の分化・成熟が抑制されることが明らかになった。カルシウムイオノフォアあるいはIgE/抗原にて刺激したBMMCの培養上清を添加した際にも脂肪細胞の分化・成熟が抑制され、特にカルシウムイオノフォアで刺激した際の培養上清に強い抑制作用が観察される傾向が認められた。さらに、BMMCの培養上清を限外ろ過により<3kDa、3-50kDa、50-100kDa、>100kDaに分画して解析したところ、>100kDa画分に抑制活性が認められた。また、培養上清の加熱処理により抑制作用が低減した。これらの結果から、抑制因子は高分子量の熱感受性因子であり、定常状態のマスト細胞からも産生されるが、刺激により産生が誘導されると考えられた。以上、マスト細胞が産生し、脂肪細胞の分化・成熟を抑制する活性を持つ液性因子の特性を明らかにした。 一方、腸内細菌叢がマスト細胞の表現型に及ぼす影響を明らかにするために、通常マウスと無菌マウスより腸管粘膜マスト細胞を単離して遺伝子発現の比較を行った。その結果、腸内細菌叢により腸管粘膜マスト細胞において発現が誘導あるいは抑制される複数の遺伝子を同定した。さらに、プレバイオティクスとしてフラクトオリゴ糖をマウスへ経口投与することにより腸管粘膜マスト細胞の表現型に影響を及ぼすか解析した。16S rRNA遺伝子配列の次世代シークエンスにより腸内細菌叢の構成の変化が確認され、腸管粘膜マスト細胞において特定の細胞表面受容体やサイトカイン遺伝子の発現の抑制が示された。これらの結果より、腸内細菌叢への介入により腸管粘膜マスト細胞の機能を制御できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マスト細胞が産生する液性因子による脂肪細胞の分化・成熟の抑制について、まず、マウス骨髄由来マスト細胞の培養上清中に活性因子が存在することを示した。次に、分子量や熱感受性等その特性を明らかにすることができた。しかし、現在候補分子について活性を確認している段階であり、実験系の条件設定に予想以上に時間を要したこと、コロナ禍による入構制限・研究室活動の制約があったことから因子の同定までには至らなかった。一方、腸内細菌叢への介入によるマスト細胞依存的な抗肥満効果の検証に向けて、腸管粘膜マスト細胞における遺伝子発現への腸内細菌の影響を解析し、腸内細菌叢への介入によるマスト細胞の機能調節の可能性を示すことができた。以上の状況から、進捗状況について「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究結果より、マスト細胞が産生し、脂肪細胞の分化・成熟を抑制する液性因子の特性が明らかになったことから、まず、その情報をもとにMS解析や免疫沈降の手法を利用して本因子の同定を行う。一方、細胞間の物理的接触を介したマスト細胞による脂肪細胞の分化・成熟の促進機構の解明のために、物理的接触に関わる細胞表面分子を同定し、その分子のin vitroおよびin vivoにおける機能解析を行う。また、脂肪細胞の分化・成熟を抑制あるいは促進する因子としてそれぞれ同定した分子について、腸内細菌叢がマスト細胞におけるこれらの分子の発現に及ぼす影響を明らかにする。さらに、腸内細菌叢の構成を変化させた際にマスト細胞におけるこれらの分子の発現を解析し、腸内細菌叢への介入によるマスト細胞依存的な抗肥満効果について検証する。
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