研究課題
マスト細胞による脂肪細胞の分化・成熟の正負両方向の制御のうち、まず、脂肪細胞の分化・成熟を抑制する活性を持つ、マスト細胞が産生する液性因子の同定を試みた。昨年度明らかにした抑制因子の特性に基づき、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)の培養上清から>100kDa画分を分画後、イムノグロブリンを除去した。同様の処理を行った培地を対照として定量プロテオーム解析を行い、抑制因子の候補分子を同定した。次に、マウス繊維芽細胞株の脂肪細胞へのin vitro分化誘導系において、分化誘導後期にBMMCとの共培養を行うことにより脂肪滴の蓄積が促進された。この促進作用はトランズウェルインサートの使用により低減したことから、細胞間の物理的接触を介するものであることが確認された。一方、腸内細菌により発現が制御されることが示された4つの転写因子のsiRNAをBMMCに導入して表現型の変化を解析した。その結果、受容体やサイトカイン遺伝子の発現パターンが変化することが明らかになった。さらに、マスト細胞における脂肪細胞の分化・成熟の制御因子の発現や活性化がこれらの転写因子により調節されるか、すなわち腸内細菌により影響を受けるか解析するために、それらの転写因子の発現プラスミドを構築し、BMMCに持続的に過剰発現させる系を確立した。また、腸内細菌によるマスト細胞への作用を介した脂肪細胞の分化・成熟の制御の可能性について検討するために、マウスを用いた腸内細菌叢への介入試験においてマスト細胞の表現型の変化と占有率に相関が認められる腸内細菌を選抜した。以上、マスト細胞による脂肪細胞の分化・成熟の制御とその機構、腸内細菌によるその調節について得られた知見は、マスト細胞の新たな生理的役割の解明のみでなく、肥満や生活習慣病等の予防のためのアプローチにつながるものである。
2: おおむね順調に進展している
マスト細胞による脂肪細胞の分化・成熟の制御機構について解析を進め、抑制作用を示すマスト細胞由来液性因子の候補分子を同定し、また、細胞表面分子間の物理的相互作用を介した促進作用が存在することを示すことができた。また、腸内細菌叢への介入によるマスト細胞依存的な抗肥満効果の検証に向けて、マスト細胞の表現型の変化と占有率が相関する腸内細菌種の影響や腸内細菌により制御を受ける転写因子の作用について解析するための実験系を整えることができた。解析の一部を次年度へ持ち越したが、概ね順調に進行している。
マスト細胞による脂肪細胞の分化・成熟の抑制および促進作用について、さらに詳細な分子機構を明らかにする。また、同定した制御因子もしくはその合成酵素等をノックダウンしたBMMCを用いたin vitroおよびin vivoの試験により制御因子の機能を確認する。一方、腸内細菌叢への介入により、脂肪細胞の分化・成熟を制御するマスト細胞の作用がコントロールされる可能性を検証するために、制御因子のマスト細胞における発現や活性化が腸内細菌により調節されるか解析する。また、これまでに特定したマスト細胞の表現型を変化させる腸内細菌のなかでマスト細胞への作用を介して脂肪細胞の分化・成熟の抑制作用を示す菌株を選抜し、マウスへの同菌株の経口投与により脂肪蓄積を抑制する効果がみられるか評価する。
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J. Immunol. Res.
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臨床免疫・アレルギー科
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