旨味受容体T1R1/T1R3は、食物中に含まれるタンパク質を検知するための味センサーと考えられてきた。近年、研究代表者らはヒト以外の動物種を対象とした研究から、旨味受容体の機能が動物の食性に応じて種ごとに柔軟に変化してきたことを示した。一方で、ヒト旨味受容体はグルタミン酸に特化したアミノ酸選択性を示しかつ、イノシン酸やグアニル酸といったヌクレオチドでも活性化されるが、その生理的意義は明らかでない。そこで、本研究ではヒトを含む様々な動物種間で、旨味受容体の機能及び食物を比較し、ヒト旨味受容体の特徴である「高グルタミン酸活性」及び「ヌクレオチド受容能」がどのような食物成分の味・栄養素検出と結びついているかを明らかにする。具体的には、様々な動物種を対象に、旨味受容体の塩基配列解析、機能解析、食物成分分析、行動実験等を行う。 昨年度までにクローニングが完了した霊長類の旨味受容体の機能解析を行った。結果、旨味受容体がグルタミン酸で強く活性化される霊長類は、葉を主要なタンパク質供給源として利用していた。一方、旨味受容体がグルタミン酸で強く活性化されない霊長類は、昆虫にタンパク質供給を頼っていた。さらに、単独では旨味受容体を活性化することができないと考えられていたヌクレオチドが、様々な霊長類の旨味受容体を単独で強く活性化することを発見した。また、グルタミン酸やヌクレオチドに対する感度が変化する原因となった、アミノ酸変異を同定した。 食物成分分析の結果から、昆虫にはヌクレオチドとグルタミン酸の両方が豊富に含まれるのに対し、葉にはグルタミン酸は含まれているもののヌクレオチドがほとんど含まれていないことが示された。以上から、ヒトを含む一部の大型霊長類において、ヌクレオチドセンサーからグルタミン酸センサーへと旨味受容体の機能が変化し、ヌクレオチドを含まない葉をおいしく味わえるようになったと考えられた。
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