研究課題/領域番号 |
20H02944
|
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
中川 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (20379598)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 構造食品科学 / 中性子小角散乱 / 中性子準弾性散乱 / 示差走査熱量測定 / 水和 / ナノ構造 / 澱粉の糊化・老化 / 卵白ゲル |
研究実績の概要 |
澱粉の結晶化度はそのマクロな物性に反映されるため、結晶化度と構造ダイナミクスの関係性は興味深い。中性子準弾性散乱を用いて、糊化した澱粉の老化に伴う分子ダイナミクスの変化を調べた。測定された中性子準弾性散乱の幅は老化に伴い狭くなった。また、弾性非干渉散乱構造因子は増加し、老化現象に伴い分子ダイナミクスが空間的に抑制されることが示された。さらに澱粉の老化に伴う分子運動性の変化と、X線回折による結晶化度の変化との相関関係を見出し、中性子準弾性散乱解析から澱粉の結晶性に由来する特徴的な分子運動性を解析するための手掛かりを得ることができた。これらの成果は、食品の構造物性研究の基礎研究のみならず、食品加工や保存などの応用研究としても重要な視点を与える成果である。また、澱粉の糊化を中性子準弾性散乱測定によって解析し、DSCの吸熱ピークでは分離できなかった状態変化を検出し、現在その詳細を解析中である。卵白のゲル化に伴うミクロ構造の変化について中性子小角散乱測定や中性子準弾性散乱実験を行い、マクロな物性の異なる複数の卵白ゲルのミクロ構造や水和状態の違いの解析を進めている。中性子散乱法を基軸とし各種分光測定、熱分析等の実験手法を融合した手法により、食品の構造物性相関の解析を進めた。特に、赤外分光法と中性子小角散乱の同時測定系の開発を行い、澱粉などの食品素材のナノ構造と水和状態の相関解析などに着手した。また中性子非弾性散乱手法の高度化に関わる装置の試料環境の高度化や機器開発を行った。これらの測定装置の高度化を通じて、中性子準弾性散乱により食品蛋白質の水分活性に対する塩の影響を解明や、同位体コントラスト法による食品中の水の動態を解明し、水分活性と水の物理化学的特性の関係性を解明した。また、中性子非弾性散乱とテラヘルツ分光の相補性や共通性に着目した総説を出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
澱粉の糊化・老化や卵白のゲル化の解析において、示差走査熱量測定(DSC)と中性子散乱データとの相関性が認められる結果が得られている。また中性子散乱と赤外分光測定との同時測定による食品の構造解析に着手した。このように、食品素材のマクロな物性変化についてミクロ構造の視点から理解するための解析や計測法の開発がさらに進んだため。
|
今後の研究の推進方策 |
澱粉の糊化・老化や卵白ゲルについて中性子小角散乱や中性子準弾性散乱による解析と合わせて行う。また中性子同時測定系による食品の構造と水和状態の相関解析を推進する。食品中の水の状態とミクロ構造との関係性を解析することで、水和の観点から食品のミクロ構造を調べ、引き続き水分活性の分子論的な解釈につなげていく。
|