研究課題/領域番号 |
20H02949
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
松田 幹 福島大学, 食農学類, 教授 (20144131)
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研究分担者 |
宮田 真路 東京農工大学, 農学部, 准教授 (60533792)
西尾 俊亮 福島大学, 食農学類附属発酵醸造研究所, 特任助教 (20825880)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 受精 / 精子プロテアーゼ / ZPタンパク質 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究から、S2細胞で分泌発現させたブタアクロシンでは、低分子基質での酵素活性と、SDS-PAGEゲル内でのミルクカゼインをタンパク質基質にした場合の酵素活性は測定できたが、親水性小分子量タンパク質MBP(maltose-binding protein)と融合したZPタンパク質を基質した場合には分解活性は認められなかった。そこでS2細胞で発現させる際に、アクロシンとZPの発現コンストラクトDNAを混合して同時にS2細胞に添加して形質転換することで、同一細胞内でアクロシンとZPタンパク質を一緒に発現させ、ゴルジや分泌小胞などの細胞内小胞の内部でアクロシンとZPタンパク質を遭遇させて高濃度の状態で酵素反応をさせるモデル実験系を試みた。 ブタZPsを単独で発現させると、それぞれの融合タンパク質に相当する75 kDa前後の分子量のMBP-ZP2、MBP-ZP3およびMBP-ZP4のバンドが明確に検出でき、S2培養細胞での分泌発現では内因性のプロテアーゼで分解されることなくインタクトな状態で分泌発現することが明らかとなった。そこで、MBP-ZPsのそれぞれの発現コンストラクトとブタアクロシンの発現コンストラクトを混合してS2細胞に導入して分泌発現させた。培養上清のMBP-ZPsをMBPに対する抗体で検出するSDS-PAGE・免疫ブロットで解析した結果、MBP-ZP2では約50 kDaの、またMBP-ZP3とMBP-ZP4では約57 kDaの分解断片が検出された。MBP単体では約40kDaで全く分解されていないことから、それぞれのZPタンパク質を構成するドメイン(ZPNおよびZPCドメイン)を繋ぐリンカー領域が選択的に切断されている可能性が考えられた。また、断片化されたバンドと未分解のバンドの強度の比較から、MBP-ZP2が優先的に切断されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの研究により、5種の哺乳類(ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ)の精子プロテアーゼについてS2昆虫細胞での分泌発現系を用いて、活性型のプロテアーゼを分泌発現させることに成功し、今年度の研究では受精時における実際の基質であるZPタンパク質を切断する活性の検出にも成功した。昨年度の研究では、プロテアーゼとZPタンパク質を別々に分泌発現させてから混合してZPタンパク質分解活性を検出しようと試みたが活性が認められなかったため、コトランスフェクション法を用いて分泌発現の過程も含めて酵素反応させるモデル実験系で評価した。その結果、ブタのアクロシンとZPタンパク質の系で、各ZPタンパク質が限定分解されること、特にZP2が分解され易いことを明らかにすることができた。未だブタの実験系のみの成果ではあるものの、組換型のプロテアーゼを用いて組換型の基質タンパク質の特異的な分解を検出できたことは大きな進捗と考える。アクロシンとZPタンパク質が同一細胞内で遭遇することは、生理学的、生物学的には起こり得ないことではあるが、受精時の卵膜表層での精子先体反応の際には接着した配偶子細胞間の間隙での酵素反応であり酵素・基質分子間相互作用という生化学的観点では共通点があるとも考えられる。以上のように、当初の計画よりは若干遅れてはいるが、このような新たな活性評価実験系を構築できたことから研究は概ね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度となるR5年度は、ブタのアクロシンとZPsでの研究結果を踏まえて、ヒトのアクロシンとZP1, ZP2, ZP3およびZP4をS2細胞でのコトランスフェクション分泌発現系を用いて、ヒトにおけるアクロシンによるZPsの分解を評価する。合成基質を用いたプロテアーゼ活性ではヒトの組換アクロシン標品はブタアクロシン標品に比べて低い結果が得られており、実際のZPタンパク質を基質として用いた場合では分解活性を示すかを明らかにする。 また、S2細胞で共発現させたアクロシンとZPタンパク質を、それぞれのタグ抗体と蛍光2次抗体を用いて免疫染色し、細胞内での分布、共局在等を観察する。さらに、ヒトとブタの組合せで、動物種が異なるアクロシンとZPタンパク質とを反応させた場合に、同様な分解が観察されるかを調べ、精子プロテアーゼによる卵膜分解の種特異性について考察する。 さらに時間が許せば、精子と卵子の相互作用におけるリガンド・レセプターとして機能していることも示唆されているアクロシンとZPタンパク質について、それらの分子間相互作用が一般的な酵素・基質に見られる一過性の複合体であるのか、あるいはそれ以上の結合親和性があるのかを、免疫沈降法を用いて解析する。これらは本研究課題の次の展開の基盤となるものである。
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