研究課題/領域番号 |
20H02950
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
小泉 望 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 教授 (20252835)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス応答 / bZIP型転写因子 / 細胞質スプライシング / シロイヌナズナ / ルシフェラーゼアッセイ / GFP |
研究実績の概要 |
小胞体ストレス応答では、bZIP60u mRNAの細胞質スプライシングが起こり、通常小胞体膜に存在するbZIP60が、ストレス条件下では細胞質スプライシングの結果、翻訳されたbZIP60は膜貫通ドメインを失い、核へ移行し転写因子として働く。さらに新たな読み枠ORF2が生じる。トランジェントアッセイの結果、ORF2がbZIP60の転写活性を上昇させることが示唆された。そこでORF2がbZIP60の転写活性を高めるメカニズムの解明を目的とし、「ORF2が持つ核移行シグナル(NLS)がbZIP60sの核移行を促進する可能性」と「ORF2が他のタンパク質と相互作用する可能性」を念頭に実験を行った。 GFPと欠失あるいは変異を持つORF2の融合タンパク質を発現るするBY-2細胞株を作出し、共焦点レーザー顕微鏡を用いてGFP蛍光の細胞内局在を観察したところ、トランジエントアッセイで見られた転写活性の差は核局在以外の要因に起因すると考えられた。 タグを付加したbZIP60sあるいはORF2を欠くbZIP60ΔCを発現する形質転換シロイヌナズナを作出し、bZIP60sあるいはORF2を欠くbZIP60と相互作用するタンパク質を質量分析により同定、比較することでORF2に特異的に結合するタンパク質を同定することを計画した。常に活性型bZIP60であるbZIP60sを過剰発現する植物の作出は困難であるため、ツニカマイシン(Tm)処理によりbZIP60あるいはbZIP60ΔCが発現するように計画した。またタンパク質をトラップするために3つのタグを付加したbZIP60の発現を試みた。その結果、Tm処理によるスプライシングが起きていることは確認されたが、ウエスタンブロットではbZIP60のシグナルは検出されたものの、Tmの有無でタンパク質の分子量には違いが見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GFPを用いた実験からORF2のC末端領域にある核移行シグナルは機能すると考えられたが、核移行シグナルを欠失したbZIP60sも明確な転写活性化能を示すことから、核移行の活性化以外の機能をORF2は有すると考えられた。GFPによる実験に関してはある一定の成果が得られたと考えている。 一方、ORF2と相互作用するタンパク質の同定に関しては、形質転換シロイヌナズナで発現させたタグを付加したbZIP60タンパク質の分子量が予想より大きく、ORF2を欠くbZIP60ΔCと分子量の差が見られなかった。この原因は分からない。タグを多くつけたことでRNAの構造が変わり細胞質スプライシングが予想通りに起こらなかった可能性も考えられるが、それだけでは説明がつかず、さらなる検証が必要である。形質転換植物の作成には一定の期間を要するが、今回の実験が想定通りに進まなかったので結果的に進捗状況としては「やや遅れている」。
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今後の研究の推進方策 |
新たなコンストラクトを作成して形質転換シロイヌナズナの獲得を目指していたのでは期間内に目的を果たすことは現実的ではない。ルシフェラーゼを用いたトランジエントアッセイの系ではFlag-bZIP60とFlag-bZIP60ΔCの間に明確な転写活性化増強能の違いがあることから、形質転換シロイヌナズナを用いるのではなく、プロトプラストを用いてORF2に結合するタンパク質の同定を目指す。つまり、bZIP60遺伝子欠損株からプロトプラストを単離し、Flag-bZIP60とFlag-bZIP60ΔCを発現するコンストラクトを導入する。ルシフェラーゼアッセイで目指す活性化能が見られることを確認した上で、タンパク質を抽出し、抗Flagアガロースを使って、タンパク質を精製し、質量分析に供する。質量分析により同定されたタンパク質の差分を取ることでORF2結合タンパク質の候補とする。実際にORF2と結合することを酵母ツーハイブリッド法、プルダウンアッセイ、並びにBiFC法により確認する。
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