研究課題
植物から放出される揮発性化合物(VOC)は、植物がコミュニケーションを図るための重要な情報ツールである。中でも、害虫に食害された植物から放出されるVOCに曝された周囲の未被害植物は害虫に対する抵抗性を高めることができるが、植物がVOCを受容し、防御遺伝子等の活性化に繋げるための作用機序は未だ不明である。そこで本研究では、植物のVOC認識・応答およびそれに伴った防御応答を担うシグナル伝達因子を同定することで、植物間コミュニケーションを介した害虫抵抗性機構の解明を試みた。【VOC受容を担うTPLの同定】 VOC結合タンパク質TOPLESS(TPL)遺伝子(5種)の過剰発現シロイヌナズナ株および変異株を作成し、VOCおよびハスモンヨトウ食害応答におけるTPLの機能解明のための基盤を構築した。さらに、BiacoreシステムおよびBiFCシステムを用いた分子間相互作用解析により、TPLがヒストン脱アセチル化酵素であるHDA6と結合する事実を見出した。HDA6は植物のエピジェネティック転写制御因子であることから、TPLはHDA6と共に当該制御機構に関わる可能性が示唆された。【VOC受容を担う脂質輸送タンパク質の同定】 VOCと結合する脂質輸送タンパク質nsLTP3の嗅覚受容における機能を明らかにするために、食害およびVOC曝露によって発現が誘導されるトマトnsLTP候補遺伝子を同定した。【E3ユビキチンリガーゼJUL1に依存した遺伝子制御機構】 食害やVOCに曝された植物は、ジャスモン酸(JA)シグナル伝達を活性化して虫害抵抗性を高める。シロイヌナズナのRING型ユビキチンリガーゼであるJUL1は、ERF15転写因子を足場として、JAシグナル伝達系抑制因子であるJAV1分解を促すモデルが提唱された。
2: おおむね順調に進展している
実験計画に沿って研究は計画通りにに推進されている。今年度は、食害およびVOCに曝された植物における細胞内シグナル伝達を担う分子の同定とそれらの機能の理解において重要な進捗があった。
食害やVOCに曝された植物におけるTPL-HDA6システムおよびnsLTPを介したVOC輸送システムの作用機序を明らかにする。具体的には、食害・VOCに曝された野生株、TPL変異株および過剰発現組換え株の葉における遺伝子発現制御およびヒストンアセチル化レベルを解析する。さらに、nsLTPの変異株および過剰発現組換えトマト株を作出し、当該植物の食害・VOC応答能力を評価する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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