研究課題/領域番号 |
20H02958
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山本 敏央 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (00442830)
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研究分担者 |
米丸 淳一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, ユニット長 (40355227)
小川 大輔 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 上級研究員 (10456626)
古田 智敬 岡山大学, 資源植物科学研究所, 助教 (70774008)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / 育種法 / ゲノム / 多系交雑 / 多様性 |
研究実績の概要 |
品種改良や遺伝実験において、用いる集団の遺伝構成は目標の達成に大きな影響を与える重要な要素である。自殖性作物の育種では2種類の両親に由来する交雑集団から表現型をもとに優良個体の選抜を繰り返す方法が一般的だが,この場合,対立遺伝子の組み合わせが二つの親間のみに限定されることから多様性の拡大という点で必ずしも最適とは言えない。 課題担当者らは、これまでに複数品種の積み上げ交雑からなる多系交雑集団(Multi-parent Advanced Generation Inter-Cross ; MAGIC集団)の作出を開始し,8種類の国内多収水稲品種の8系交雑F1に由来し、これらゲノムがほぼ均等に存在する恒久的な自殖集団を育成した.これまでの遺伝解析で用いられてきたRecombinant Inbred Lines (RIL)集団,Genome Wide Association Study (GWAS)集団,Nested Association Mapping (NAM)集団等と比較して,本集団は多数のハプロタイプが交雑によって混合された集団という点でユニークなものである。MAGIC集団は由来親を識別する多数のハプロタイプ多型を活用することで,高精度な連関解析やゲノムワイド予測モデルの構築に貢献する。 今年度は、MAGIC集団がGxEの検出に有効かどうかを評価する実験を出穂期を例に行った。出穂期は日長の影響を強く受けることから、主要な感光性遺伝子の違いが表れにくい2地点として、比較的緯度の近い東日本のつくば市と西日本の倉敷市でMAGIC集団の出穂期を調査し、GWAS解析の結果をもとに地域共通および特有のゲノム領域の検出を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両地域のMAGIC集団の出穂期にはR=0.78の高い相関が認められたが、最晩生となる系統群は両地域で異なり、出穂期関連遺伝子と環境の相互作用が存在すると考えられた。これを決定する遺伝因子を明らかにするために、8品種のNGS情報をもとに品種間で多型を示しゲノムワイドに分布する13600か所のSNP情報(平均30kb間隔)を用いてGWAS解析を行った。最も効果の大きいQTLは両地域とも共通で、第7染色体の出穂期関連遺伝子Ghd7近傍に検出された。2番目以降のQTLは両地域で異なったが、いずれも既報の出穂期関連遺伝子座の可能性が高かった。各遺伝子座は2つないし3つのハプロタイプグループにまとまり、全ての遺伝子座で各グループ間で出穂期に関して有意差が検出された。このことから2番目以降のQTLは倉敷ではHd6-Hd16ブロックとRFT1-Hd17ブロック、つくばではehd2、Ehd4およびEtr2が候補遺伝子と予想された。 これらQTL領域のうち、地域との間で一番顕著な相互作用が認められたRFT1-Hd17ブロックでは、倉敷市の晩生型は全てこの領域がルリアオバ型ハプロタイプであった。このことから少なくともルリアオバのRFT1-Hd17ブロックに存在する遺伝子が両地域の環境に反応して花成のタイミングを変えている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
栽培評価を行った2つの地域の緯度はほぼ同じであるが栽培時期が異なる(つくば市は4/20播種、倉敷市は5/20播種)ので各生育ステージにおける日長はやや異なる。緯度と感光性の議論はイネの地域適応性の観点から広く行われているが、作期と感光性の議論はそれに比べれば多くない。作期の違いによる品種の出穂反応の違いは、栽培体系とセットで品種開発を考える場合には無視できず、この相互作用の遺伝的基礎を明らかにすることは重要である。 またルリアオバはサイレージ用で2回刈りに適した品種として開発された。2回刈りにおいては「ひこばえ」の再生性に加えて2回目の生育時の出穂が早くなりすぎないこと(遅植え栽培における花成の遅延)が重要である。ルリアオバのRFT1-Hd17ブロックは、1番草の出穂は遅らせないが、収穫後の短日下での花成の促進程度が他のハプロタイプよりもわずかに遅くすることから、2番草で生育量を確保するための必須遺伝子であった可能性も考えられる。 以上を踏まえて、次年度のMAGIC集団の栽培は今年度の評価の反復に加えてつくば市では遅植え栽培、倉敷市では早植え栽培を実施する。またルリアオバとタチアオバのRIL集団に由来する検証可能な遺伝子型組み合わせにおける出穂調査も実施する。これらの結果から、今年度検出された相互作用の本質を明らかにする。 これとは別に、今年度シーケンス情報を取得したMAGIC集団の親品種と同一の8品種に由来するゲノムシャッフリング集団について、MAGIC集団と比較したゲノム構造の変化を明らかにする。また、同集団の基本農業形質を調査し、表現型変異についてもMAGIC集団との比較を行う。
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