イネ穀粒中のタンパク質含量が高いと食味や酒米適性を低下させることから、登熟期のイネの栽培はしばしば低窒素条件で行われる。一方、通常の窒素施肥条件でも穀粒中のタンパク質量を抑制することができれば、低タンパク質米でながら収量性も高めることが可能と考えられる。イネ穀粒中のタンパク質の40~70%は老化した葉からもたらされることから、葉からの転流が抑制される葉老化抑制(ステイグリーン)突然変異体は実用上の低タンパク質系統として利用可能と考えられる。そこで本研究ではイネにステイグリーン形質を付与することで、十分な窒素施肥条件下でも穀粒中のタンパク質量が抑制されるイネ系統の作成を目指した。本年度は昨年度までにイネステイグリーン系統735-Aの原因遺伝子をMutMap法によりラフマッピングを行っていたが、今年度は多数のF2分離個体を用いた高精度マッピングにより詳細に検討した結果、約430kbの領域に候補領域を限定できた。一方、その領域内には候補領域内に終止コドンの創出などの遺伝子機能に大きく影響を及ぼす変異は確認されず、エクソンに存在する変異はアミノ酸置換のひとつのみであり、候補遺伝子として注目された。また、CRISPR-Cas9により得られた葉老化時に誘導されるNAC転写因子NBL1-5の五重変異体は極めて稔性が低いことが明らかになったが、その原因はNBL1の変異多と考えられたことから、NBL2-NBL5の四重変異を作出し、葉老化を観察したところ、野生型と大きな差は見られなかった。
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