本研究は、低温誘導成熟機構を、温帯性果実種横断的ゲノム・トランスクリプトーム解析、メタボローム解析、遺伝子組換え技術どを駆使して解析し、その統合的理解を目指す先駆的学術的取り組みである。低温誘導成熟果はエチレン誘導果よりも品質保持期間が長く、低温感受性の品種間差異は成熟の早生・晩生性に密接に関与している。本研究は、収穫後ロス低減に直結する新品質保持技術開発と分子マーカー開発による育種への貢献を目的とする。本年度は、研究の第4段階として、低温遭遇処理、1-MCP処理およびエディブルコーティング処理を行なったカキ、ウメ、トマト果実でのRNAseq解析、ガス代謝解析およびイオン漏出解析に基づいて低温環境への応答および低温障害発生機構の全体像を把握するとともに、低温応答への鍵となる遺伝子および細胞膜状態の解析を進めた。さらに、低温障害発生抑制技術の開発を試みたところ、ウメでは7℃以下の貯蔵環境ではピッティングや果皮表面の褐変を特徴とする低温障害発生が用いた2品種のいずれでもシュガーエステルによるエディブルコーティング処理によって、顕著に抑制できることが示された。同様に、トマト果実でも5℃以下で果肉の一部が水浸状になる低温障害の発生を遅延させることができた。さらに、カキ果実でもエディブルコーティングによる低温貯蔵後および流通中の品質保持技術を開発した。これらの知見は実際の果実の貯蔵においてエディブルコーティングが低温障害を回避する品質保持技術に活用できることを示している。
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