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2020 年度 実績報告書

活性酸素の受容体による柔軟な植物免疫誘導機構の分子基盤

研究課題

研究課題/領域番号 20H02984
研究機関名古屋大学

研究代表者

吉岡 博文  名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30240245)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード活性酸素種 / ROSセンサー / 植物免疫
研究実績の概要

植物は病原菌の分子パターンに続いてエフェクターを認識し、Pattern-triggered immunity (PTI) とそれに続くEffector-triggered immunity (ETI) とで構成される。いずれにおいても、NADPHオキシダーゼによって急激な活性酸素種 (ROS) の生成反応であるROSバーストが誘導される。ROSバーストは第一では弱く、第二ではより激しく起こり、免疫細胞死に重要な役割を果たす。第一と第二では異なる遺伝子や反応が誘導されるが、同じROSに起因する応答であり、その機構は未詳である。
ROSはそのセンサータンパク質を酸化することによって構造を変化させ、様々な細胞応答を引き起こすと考えられている。ROSであるH2O2は、そのセンサータンパク質のシステインのチオール基 (-SH) を酸化し (-SOH;スルフェン酸)、分子内または分子間でジスルフィド結合を形成する。あるいは、スルフェン酸が還元型グルタチオン (GSH) と反応してグルタチオン化 することによってROSセンサータンパク質の構造を変化させ、様々な細胞応答を引き起こすことが知られている。PTIとETIにおけるROSセンサーを比較することによって、ROSの生産量に依存した防御応答の調節機構を紐解くことができると予想される。しかし、植物免疫応答に関与するROSセンサーについては未開拓であり、ブラックボックスとなっているため、ROSによる免疫誘導の分子機構は未詳である。
本研究ではは、ROSセンサーと結合するタンパク質を用いることによって、ROSセンサータンパク質を精製する系を思考した。本研究では、植物免疫応答の鍵を握るROSセンサータンパク質を網羅的に探索し、機能を明らかにすることでROSによる免疫統御機構を明らかにすることを目的とする。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、植物免疫応答の鍵を握るROSセンサータンパク質を網羅的に探索し、機能を明らかにすることでROSによる免疫統御機構を明らかにすることである。ROSは、植物免疫応答を局部的、全身的あるいはPTI、ETIにおいて重要なシグナル分子であると認識され、世界中で防御応答のマーカーとして観察されているが、その作用機構について説明することができない。本研究は、この疑問に答える目的でROSセンサータンパク質を発掘する独創的な試みである。
初年度は、ベンサミアナタバコ (Nicotiana benthamiana) に細菌のべん毛タンパク質に由来するflg22によってPTIを誘導し、さらにジャガイモの抵抗性遺伝子であるRpi-blb2を導入したベンサミアナタバコ葉にETIを誘導し、それぞれで生産されたROSの一つである過酸化水素によってスルフェニル化されるROSセンサータンパク質を精製した。葉から精製した標的タンパク質を Isobaric Tagでそれぞれ標識し、iTRAQ法によってLC-MS/MS解析した。この方法では、2段階目のMS解析で標識したタンパク質の質量に変化をもたらすことができるため、すべてのサンプルを混合して定量的なプロテオーム解析が可能となる。網羅的なプロテオーム解析の結果、タンパク質リン酸化酵素、イオントランポーター、防御関連遺伝子、酸化還元反応などが得られた。

今後の研究の推進方策

本年度は、PTIおよびETIで獲得されたROSセンサータンパク質からそれぞれ候補遺伝子を選択し、ウイルスベクターを用いてベンサミアナタバコの標的遺伝子を迅速にノックダウンする。これら遺伝子を抑制したベンサミアナタバコ葉に半活物寄生菌であるジャガイモ疫病菌 (Phytophthora infestans)、ウリ類炭疽病菌 (Colletotrichum orbiculare)、さらに殺生菌である灰色かび病菌 (Botrytis cinerea) を接種し、候補遺伝子の抵抗性における役割を評価する。この際、病斑形成、菌糸の伸長を丹念に顕微鏡下で観察すると共に、バイオマスも測定した。さらに、flg22によって誘導される活性酸素に対する影響を調べる。これらの結果より、有意な抵抗性への関与が認められる遺伝子を獲得する。
DimedoneとBTD (benzothiazine-based probe) はスルフェン酸と特異的に結合する化合物である。Dimedoneは特異的な抗体を用いることで検出が可能である。BTDはアルキン基を含み、クリック反応でアジ化ビオチンと結合し、アビジンとストレプトアビジンの特異的結合による検出が可能である。標的タンパク質を精製し、DimedoneまたはBTDとH2O2で共処理し、SDS-PAGEを行った後、ウエスタンブロットにより検出する。あるいは、LC-MS/MS解析によってスルフェニル化されるシステインを特定する。また、インフィルトレーションによりDimedoneまたはBTDとflg22で共処理することによって、植物内でスルフェニル化されるシステインを特定する。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] ナノ粒子による植物免疫システムの誘導と病害防除戦略2021

    • 著者名/発表者名
      吉岡博文・吉岡美樹・鳴坂義弘・鳴坂真理・大高剛史・上田真澄
    • 雑誌名

      アグリバイオ

      巻: 5 ページ: 75-79

  • [雑誌論文] Oral RNAi of diap1 results in rapid reduction of damage to potatoes in Henosepilachna vigintioctopunctata.2021

    • 著者名/発表者名
      Chikami, Y., Kawaguchi, H., Suzuki, T., Yoshioka, H., Sato, Y., Yaginuma, T. and Niimi, T.
    • 雑誌名

      Journal of Pest Science

      巻: 94 ページ: 505-515.

    • DOI

      10.1007/s10340-020-01276-w

    • 査読あり
  • [学会発表] サリチル酸とジャスモン酸シグナルの拮抗作用を反映するバイオセンサーの構築2021

    • 著者名/発表者名
      吉岡美樹・田中達己・尾中南海・荒川花子・別役重之・多田安臣・鳴坂真理・鳴坂義弘・ 上田真澄・大高剛史・安達広明・吉岡博文
    • 学会等名
      令和2年度日本植物病理学会大会
  • [備考] ナノ粒子を用いた農薬送達システムによる革新的植物免疫プライミング技術の開発

    • URL

      https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20201109_agr1.pdf

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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