研究課題
本課題では、ムギ類生存圏(特に根圏)におけるウイルス叢の多様性・普遍性や動態、さらにそれらの未知なる生態学的役割の一端に迫ることを目指している。以下に本年度の研究実績を示す。柱①ムギ類生存圏(特に根圏)のウイルス叢と主要な菌類・昆虫ウイルス群の宿主探索:ムギ類(オオムギ・コムギ)の地上部(葉圏)・根系、さらにそれを取り巻く寄生昆虫類(アブラムシ)、病原菌(うどんこ病菌)、雑草類の葉や根のサンプルを複数取得した。これらのうち、代表的なサンプルを選定し、全RNA画分を用いたNGSによりRNAseqデータを取得した。一部のデータセットでは、感染あるいは存在するウイルスの探索を進め、配列の確認作業や分子系統解析を進行中である。これまでの解析により、ムギ類サンプルから、新規の植物ウイルス(ルテオウイルスやフレキシウイルスなど)が見出されている。柱②根圏ウイルスの生物界を跨ぐ水平伝搬ポテンシャルと宿主への影響:ムギ類生存圏に存在するウイルスの解析、特に一連のオオムギ及アブラムシのウイルス叢解析により、アブラムシの昆虫ウイルスがオオムギサンプルからも検出されている。また、ムギ類のうどんこ病菌などからは、新奇アルファ様ウイルス、トンブス様ウイルスなどが見出されてきている。これらのウイルスは、水平伝搬ポテンシャルを検証するために今後利用可能である。柱③根圏ウイルス叢の年次変動とムギ類ウイルスの病原性の(再)評価:ムギ類根系、地上部(葉圏)のRNAseqデータから見出されてきた植物ウイルス(新規ルテオウイルスなどを含む)のリファレンス配列を取得した。RT-PCRによるこれらウイルスの遺伝子診断系を確立し、核酸抽出を伴わない簡易ウイルス診断法の導入と条件設定を進めている。また、圃場で発生する新規植物ウイルスの一部では、アブラムシ(虫媒伝搬)を用いてラボ系統の確立を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の現在までの進捗状況柱①の成果として、オオムギ、コムギの圃場サンプル(根系)からは、新規のルテオウイルスやフレキシウイルスなどを含むユニークなウイルス群(植物ウイルスのみならず菌類ウイルスも含まれると想定)を見出している。このことは、作物根系がウイルス叢の理解に有効であることを示している。さらに今後の解析により、さらなる植物ウイルス叢の深掘り(新規ウイルスや根に特異的に感染するようなウイルスの発見・理解)にもつながることも期待できる。コムギの圃場サンプルの解析で得られたフレキシウイルスについて論文投稿の準備を進めている。柱②に関しては、ムギ類を取り巻くアブラムシ、うどんこ病菌場サンプルを用いたRNAseqにより、新規性の高いウイルスが続々と見出されつつある。ムギ類のアブラムシウイルス叢の解析では、リファレンスとなる主要ウイルス配列の取得に成功しており、既に一部を論文として報告した。関連して、オオムギアブラムシのウイルスがオオムギサンプルから見出された事実より、作物(オオムギ)がアブラムシウイルスのリザーバー活性を持つ可能性が示唆されている。柱③では、オオムギウイルスのリファレンス配列を取得し、簡易な遺伝子診断系の導入と条件設定を進概ね完了している。これにより、次年度以降のムギ類ウイルスの発生動向調査や動態解析が可能となった。以上、本年度の研究進捗より本課題は当初計画通り順調に進んでいると判断した。
今後の研究実施計画は以下の通りである。柱①ムギ類の地上部・根系、寄生昆虫類(アブラムシ)・病原菌(うどんこ病菌)より取得したNGSデータを用い、ウイルス配列のさらなるマイニングを進める。得られたウイルス配列の分子系統解析により、オオムギ葉圏、根圏のウイルス叢の多様性を理解する。また、植物側のリザーバーポテンシャルを評価するために、アブラムシおよびその寄生する植物体をサンプリングしそのNGSデータを取得する。ムギ根系のNGSデータを用い、根圏(根の表面や内部を想定)に存在する菌類・細菌叢を評価すると共に、引き続きオオムギ根系のNGSデータの取得を進める。オオムギ葉や根系サンプルを用い培養可能な菌類の分離を試み、分離できた場合はそれらのウイルス叢解析を試みる。柱②ムギ類生存圏のウイルス水平伝搬をモニターできるモデル実験系の構築に向けた基盤整備を進める。柱①の新規の根圏ウイルスについても、水平伝搬ポテンシャルの可能性を持つモノを探索する。既に構築済みバイモウイルス、フロウイルスに加え、新規にルテオウイルスの完全長配列の取得を行い、cDNAクローンの構築を目指す。さらに、菌類の新奇アルファ様ウイルス、トンブス様ウイルスウイルスなどの全長配列の取得、全長cDNAクローンの構築を進める。柱③ムギ類根圏の主要植物ウイルスの季節・年次変動をモニターするために有効な簡易ウイルス遺伝子診断系の開発・改良を進める。本手法を用いて当該年度のウイルス発生状況をフィールドで調査する。また、根系土壌からのウイルス検出について検討を加える。圃場から分離した新規植物ウイルス系統については、全長配列の決定と虫媒伝搬性やムギ類作物への病原性の評価を進める。
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