研究課題
一般にサリチル酸(SA)経路とジャスモン酸(JA)経路は拮抗的に作用すると考えられているが、本研究で見出した化合物をシロイヌナズナに処理すると、JAと共に、SAの蓄積も誘導され、JAとSAの生合成及び下流遺伝子の発現が亢進されることが明らかとなった。傷害応答時にはJAの生合成が急激に誘導されることが知られているが、経時変化を解析したところ、CY8処理した場合は、JA内生量は処理後6 hから増加し、JA応答性遺伝子PDF1.2の発現は処理後12 h以降から誘導された。SA内生量の増加、SA応答性遺伝子PR1の発現は共にCY8処理後12 hから誘導された。すなわちCY8処理により徐々にJA及びSAの蓄積が誘導され、それに呼応してJA経路、SA経路の下流の遺伝子の発現が誘導されると考えられた。シロイヌナズナに本化合物を処理し24時間後の遺伝子発現変化に対する影響を網羅的に解析した。その結果、JA、SA及び、エチレン(ET)経路が活性化される可能性が示唆された。また同時にフェニルプロパノイド生合成経路など、さまざまな代謝経路を活性化する可能性が示唆された。さまざまな生育条件や生育ステージのシロイヌナズナへのCY8の処理方法や、殺生菌である灰色カビ病菌に対する耐病性検定方法を検討した。本化合物で処理したシロイヌナズナでは、ジャスモン酸メチル(MeJA)処理した場合と同様に、対照と比べて有意に病斑面積が減少したことから、CY8は灰色カビ病菌に対するシロイヌナズナの耐病性を向上させる可能性が示唆された。培養細胞は植物体と異なり、均一な細胞群で細胞レベルでの応答を研究しやすい。そこでタバコ培養細胞BY-2、シロイヌナズナ培養細胞T87に対するCY8の影響を解析した結果、処理濃度や処理時間によっては、細胞死が誘導された。
2: おおむね順調に進展している
植物の病虫害耐性一般に拮抗的に作用すると考えられているJA経路とSA経路の双方を同時に活性化するという新規の活性を示す化合物を見出すという、当初予期しなかったを発見を達成できた。さらに、病虫害耐性と共に、二次代謝の活性化効果を発見し、今後、さまざまな植物種において、有用物質の生産の制御に応用できる可能性の端緒を見出した。トランスクリプトーム解析も試行錯誤を重ね、制度の高いデータを得ることができた。一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、研究協力者の研究室との研究交流が大きく制限されたため、モデル植物以外の種々の植物に対する作用や、種々の病虫害に対する影響の研究の立ち上げについて、難航した点もあった。
作用の経時変化の解析、植物体内の標的分子の同定を進め、本化合物の作用機構の分子レベルでの理解に繋げたい。また新規の作用を持つ化合物を同定できたので、種々の植物に対する作用の解析を進め、応用の可能性を探りたい。
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