研究課題
ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma属細菌)は昆虫媒介性の植物病原細菌であり、植物宿主と媒介昆虫との2つの宿主間を水平移動するホストスイッチングにより感染を拡大する。本研究ではファイトプラズマが宿主を操作する分子メカニズムに焦点を当て、宿主の細胞機能を制御するホストマニピュレータータンパク質の機能を解析する。ファイトプラズマは植物・昆虫の細胞内に寄生するため、ファイトプラズマから分泌されたタンパク質は宿主の細胞質で直接的に機能する。分泌シグナルを持つタンパク質は宿主を操作するホストマニピュレーターの最有力候補であるため、ファイトプラズマゲノム上にコードされる分泌タンパク質を探索し、その機能を解析する。令和3年度は、ファイトプラズマの分泌タンパク質をさらに探索するため、複数系統のファイトプラズマのドラフトゲノム解読を試みた。ファイトプラズマは人工培養が困難であるため、ゲノムを解読する際には感染植物由来のDNAを使用する必要があり、効率的な解析が困難である。一般に、植物などの真核生物のゲノムDNAはCpGサイトがメチル化されている。そこでこの性質を利用して、植物DNAとファイトプラズマDNAをメチル化DNA結合タンパク質を利用して高効率に分離する手法を試みた。本手法および次世代シーケンサー解析を用いて、アジサイ葉化病ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma asteris HP系統)のゲノム解読を試みた結果、全リードの約5%がファイトプラズマ由来のDNAであると推定された。アセンブルの結果、HP系統由来と推定される約600 kbpのゲノム領域の塩基配列を決定し、ゲノムの大部分の領域を解読できたと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は、ファイトプラズマの分泌タンパク質の塩基配列をさらに収集するため、複数系統のファイトプラズマのドラフトゲノム解読を試みた。ファイトプラズマは難培養性であるため、ゲノム解読する際には感染宿主由来のDNAを使用する必要があり、通常のプロトコールで塩基配列を決定しても、その多くは植物由来のDNAであり、ファイトプラズマゲノムを効率的に解析することは困難であった。そこで真核生物と原核生物のゲノムDNAのメチル化の違いを利用して、高効率にファイトプラズマDNAを濃縮することに成功した。本成果は、ファイトプラズマの分泌タンパク質を探索するにあたって重要な知見であり、おおむね順調に進展しているとの評価とした。
ファイトプラズマは植物・昆虫の細胞内に寄生し、またペプチドグリカン等の細胞壁を持たないため、ファイトプラズマから分泌されたタンパク質は宿主の細胞質で直接的に機能する。従って、分泌シグナルを持つタンパク質は宿主を操作する因子の最有力候補である。昨年度までの研究により、分泌タンパク質をコードする遺伝子を収集するとともに、分泌タンパク質の一つであるPHYL1とMADSドメイン転写因子との相互作用を明らかにした。今後は、これらの知見に基づいて分泌タンパク質と宿主因子との相互作用を詳細に解析することを試みる。また、PHYL1とRAD23(ユビキチン化タンパク質をプロテアソームへ運搬する因子)との相互作用を検証し、MADSドメイン転写因子を分解する過程におけるPHYL1-MADSドメイン転写因子-RAD23の三者間の相互作用様式について解析を行う。
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Journal of General Plant Pathology
巻: 87 ページ: 154~163
10.1007/s10327-021-00993-z
巻: 87 ページ: 403~407
10.1007/s10327-021-01027-4