研究課題/領域番号 |
20H02999
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大門 高明 京都大学, 農学研究科, 教授 (70451846)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 昆虫 / 変態 / ホルモン / 進化 / ゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では、昆虫がどのようにして変態する能力を獲得したのか、という問いに答えることを目指し、昆虫の変態の共通原理とその進化的起源は何かを明らかにすることを目的とする。この目的のために、これまでほとんど研究されてこなかった無変態昆虫において、幼若ホルモンがどのような機能をもつのか、そして幼若ホルモン経路がどのように働くのかを明らかにする。2021年度の主な成果は以下の通りである。 (1)マダラシミにおけるMEKRE93 pathwayの機能解析: マダラシミにおける幼若ホルモンシグナリング機構、およびその役割を明らかにするために、MEKRE93 pathwayを担う遺伝子について、ノックアウト解析を進めた。このうち、幼若ホルモン受容体Metについては、注射当代において表現型を示す個体が得られなかった。しかし、ジェノタイピングの結果、G0集団の中にノックアウトアリルをもつ個体が多数存在していた。G0と野生型を交配することにより、G1世代においてノックアウトアリルを固定することができた。現在、G1世代同士を交配し、Metノックアウトマダラシミ系統の樹立を進めている。Metノックアウト系統の解析により、幼若ホルモンの祖先的な役割、異質形成における役割、祖先的な幼若ホルモンシグナリングについての重要な知見が得られるものと期待される。 (2)マダラシミの卵巣発育機構:交尾、非交尾メスの卵巣発育過程について詳細な観察を行い、卵巣発育が交尾(精包の受け取り)に依存してダイナミックに変化することを見出した。交尾刺激に応答して成虫の内分泌環境が大きく変化することを示唆しており、今後、上記のノックアウト系統の解析も含めることにより、無変態昆虫の成虫期における幼若ホルモンの役割を明らかにすることができるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通りに、大きな問題もなく概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、以下に小課題ごとにまとめる。 (1)マダラシミにおけるMEKRE93 pathwayの機能解明:今年度に行ったように、マダラシミにおいてもゲノム編集は有効な手段となるため、Metに加えて他の転写因子(Kr-h1、broad、E93等)についても機能喪失実験を行う。 (2)異質形成における幼若ホルモンの役割の解明:スケール形成過程における詳細な形態観察を行い、スケール前駆細胞、ソケット細胞などの細胞集団の可視化、同定を試みる。ホルモン投与、ゲノム編集実験と組み合わせることにより、異質形成の内分泌制御機構を明らかにする。 (3)マダラシミの遺伝子操作法の開発:昨年度に引き続き、遺伝子組換え法の開発を進める。また、近年開発した成虫注射法による簡便な遺伝子ノックアウト法がマダラシミに適用できるか調査する。
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