研究実績の概要 |
本研究のベースは系統育成が基本となる。具体的には、坂戸クワコ雌にp50系統カイコを連続的に戻し交配して作成されたセミコンソミック系統(Fujii et al., 2021)を利用した。同系統の相互交配を行い、染色体ごとに5箇所のプライマーを設計し実験を進めた。対象染色体の5箇所のPCR産物の多型を判定し、全てがクワコタイプとなった場合、目的系統が育成されたと判断した。前年度までに9系統が完成していたので、今年度は残る18本の染色体について育成を進めた。その結果、第4染色体に関しては未完成となったが、17本の染色体については目的系統の育成を終了した。完成した各系統の絹糸腺からDNAを抽出し、ゲノムのシーケンスを行い、育成した系統の評価を行った。5箇所のプライマーは各染色体に一定間隔で設定したが染色体末端領域の設定は困難で、末端部の染色体領域の染色体置換度は低くなったが、それ以外の領域は目的の系統が育成されていることが確認された。引き続き、完成したコンソミック系統を用い、繭重、繭層重、繭の長径、短径、絹糸腺の重量、部位別の長さ等の形質を評価した。各評価形質の値は系統ごとに差が見られ、連続的な変化を示した。飼育時期により結果の相違は見られたが、対象染色体ごとに一定の傾向が見られた。繭重に関してはクワコの第21染色体を2本有するコンソミック系統(CT21)はいずれの飼育期においても最も重い結果が得られ、繭重に関する重要な遺伝子が第21染色体に存在することが示唆された。クワコの第3染色体をホモに有すると幼虫斑紋が濃色に、また第9染色体にホモに有すると繭色の笹色が淡くなる等、可視形質のレベルの変化を認めた。クワコ第1染色体(Z)には発育経過を早める作用があることが観察された。その他にも形質にも違いが見られたが、飼育時期による違いも見られるため、繰り返し実験により検討が必要である。
|