研究課題/領域番号 |
20H03005
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒木 仁志 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20707129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環境DNA / 回遊性魚類 / 純淡水魚 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトは、生態学分野の新しいツールの一つである「環境DNA」を用いて魚類の生物分布や遺伝的多様性を同時検出・評価することを目的としている。水圏では、水を汲みその中に含まれるDNAを解析する環境DNA技術は捕獲や目視によらない非侵襲的な種判別技術として目覚ましい発展を遂げている。しかしそのDNAには種内多型情報も含まれるため、これに基づく集団遺伝解析への応用可能性がある。そこで本研究では回遊性魚類を主なターゲットに環境DNA技術を核ゲノム中のマイクロサテライトマーカーに適用し、同マーカーの種内多型情報に基づく集団遺伝解析手法の確立をめざす。 R3年度は北海道・千歳川における定期採水を継続すると共に、そこで得られた環境DNAサンプルを分析、サケ由来の環境DNAの検出を行うと同時に種内多型を検出するためのマイクロサテライトマーカーの開発を行った。その結果、作成した22個のマーカー候補のうち21個についてはサケの種内多型を確認でき、18個については千歳川由来の環境DNAからも対立遺伝子のPCR増幅が見られることが分かった。ただし一部のマーカーは他のサケ科魚類でも僅かながら誤増幅が起こることも判明したため、これらの種が共存しうる河川での使用時には注意が必要となる。一方、これまで研究室で収集した北海道内広域サンプルの解析の結果から、地域変異差の大きい純淡水魚を対象とした環境DNA解析では、ハードルの高い核DNAではなく、相対的に収集の容易なミトコンドリアDNAを用いた種内多型解析が可能な場合あることが分かってきた。今後はこれら回遊魚・純淡水魚を含めた環境DNA解析を行うことで、この技術の種内多型解析研究への応用可能性を広く明らかにしていく。なお、これらの結果は2021年11月に研究代表者が主催した国際学会、環境DNA学会第四回大会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2年度は新型コロナウイルスの世界的まん延によりPCR関連の消耗品をはじめ、分子実験用の手袋やプラスチック消耗品といった実験に必要な物資の流通に著しい遅れが生じ、大学での研究活動も大きく制限されたため予定通りの調査が一部行えなかったが、R3年度は調査・研究への規制がある程度緩和され、消耗品の調達も徐々にではあるが実現しつつある。そのためR3年度の進捗状況は良好で、また環境DNA学会年大会を国際大会として主催したこともあり、関連研究を進める学生を含め、高い意欲と目的意識で調査・解析が進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
サケ用に開発した環境DNA用のマイクロサテライトマーカーを用いて千歳川を中心に本州北日本を含む広範なサケ遡上河川の解析を行い、本マーカーの実践的検証を行う。また既存のサンプルを用いて、アメマスやフクドジョウの環境DNA解析を進め、ミトコンドリアマーカーを用いた種内多型解析の実用性についても併せて検証を行う。
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