本研究プロジェクトは、生態学分野の新しいツールの一つである「環境DNA」を用いてサケ科魚類に代表される地域特異性の高い回遊性魚類の生物分布や遺伝的多様性を同時検出・評価することを目的としている。水圏では、水を汲みその中に含まれるDNAを解析する環境DNA技術は捕獲や目視によらない種判別技術として目覚ましい発展を遂げている。本研究では、DNAに含まれる種内多型情報に基づく集団遺伝解析への応用可能性を検証し、環境DNA技術に基づく集団遺伝解析手法の確立をめざす。 R5年度は千歳川における定期採水調査を継続するとともに、隣接する千歳事業所(サケマスふ化場)内、サケ稚魚飼育施設由来の環境DNAサンプルを用いてマイクロサテライト遺伝子を増幅し、従来の短いDNA増幅に比べ情報量の多い300 bpでのDNA増幅とそれに合わせた解析プログラムの改良を行った。これにより、これまでの環境DNA解析では検出できなかった200 bp以上の遺伝子座も検出可能となり、より詳細な集団遺伝解析が実現可能となることが確認された。 また、琵琶湖水系・姉川支流で採集した環境DNAサンプルを基に特殊斑紋型のイワナ(ナガレモンイワナ)の河川内分布と遺伝的多様性に関する解析を行い、本種が源流域の滝下まで分布しており、枝沢にはそれぞれ遺伝的に固有性の高い系統が分布していることを明らかにした。加えて純淡水魚であるフクドジョウ(Barbatula toni)において、北海道内の一部を除く多数の河川で環境DNAの検出がみられる一方、そのハプロタイプは地域ごとに明確に分化しており、同種の種内多型がその分布域変遷の歴史的経緯を色濃く反映している可能性が示された。
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