研究課題/領域番号 |
20H03018
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐野 雄三 北海道大学, 農学研究院, 教授 (90226043)
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研究分担者 |
重冨 顕吾 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20547202)
玉井 裕 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50281796)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 樹皮 / 樹木 / バリア機能 / ナナカマド |
研究実績の概要 |
生立木から採取した自然状態の外樹皮組織における菌糸体の存否・分布と組織の状態を顕微鏡的に詳しく観察するとともに、モデル培養系を使って樹皮組織に対する菌類の忌避性評価・成長阻害活性評価を行った。主な成果は以下の通りである。 <生立木の外樹皮における菌糸体の存否・分布>広葉樹21 種を対象に、外樹皮が十分に発達した生立木より採取された全樹皮を含む組織の液浸標本を用いて、走査電子顕微鏡により樹皮組織の解剖学的特徴と菌糸体の分布を観察した。樹皮型に拘らず、内樹皮の生きた師部組織には菌糸体は認められなかった。一方、外樹皮における分布には、樹皮型による違いが認められた。リチドームが発達する樹種では菌糸体が内方深くまで分布している傾向が明らかで、外樹皮組織中の最内の周皮まで侵入しているケースも認められた。これに対して、外樹皮が単一の周皮で構成される樹種では、菌糸体は亀裂やコルク組織の部分的な剥離部から深く侵入していたが、無傷の健全部ではごく表層にとどまっていた。 <樹皮片に対する菌類の忌避性評価>6~8月に北海道大学研究林にて計12種(広葉樹9種、針葉樹3種)の生立木より樹皮サンプルを採取した。外樹皮と内樹皮に分け、小片(3×3 cm)に切り分け凍結乾燥(24 h)後、γ線滅菌(15 kGy)を行った。これをPDA 培地上に置き、カワラタケの接種片とともに培養した。12種中1種(ナナカマド)に強い抗菌活性が認められた。樹皮組織片とカワラタケを分断する溝を培地中央に設けても、同様の活性が認められた。この結果から、ナナカマドの樹皮組織は菌類の成長を強く阻害する揮発性物質が含むことが明らかであり、化学的な恒常的防御機構解明の一つのモデルとなりえることが示された。本研究で考案した培養系は、高い抗菌活性を持つ樹皮を備える樹種を選抜するのに有効な手法であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初に計画した2つの検討項目のうち、生立木の外樹皮における菌糸体の存否・分布についてはさまざまな樹皮型をもつ多種の広葉樹について周皮と皮目の部位別に詳しい知見を明らかにすることができた。もう一つの検討項目として設定した外樹皮片に対する菌類の忌避性評価についても、独自の方法をほぼ確立できたことに加えて、極めて高い抗菌性を有し、化学的な恒常的防御機構解明のためのモデルとなりえる樹種を見出すことができた。計画していたことを100%遂行できたため、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
樹皮サンプルの採取適期は6月~7月前半の短期に限られ、これを逸すると実験の効率と精度を大きく損なうので、計画的に進める。また、これまで試料採取を行ってきた所属機関のキャンパス内に設置されている実験苗畑において、飛び地へ行き来するための跨道橋の撤去が今年度内に予定されているが、その工事に伴い多くの樹木の伐採が見込まれているので、その有効活用を考えてみたい。
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