3項目の検討を行った。第一に、前年度までに確立した樹皮組織の抗菌活性評価法により、新たに3種を対象に試験を行った。第二に、前年度までに含有成分由来のシアン化水素(HCN)により高い抗菌活性を示すことが示唆されたナナカマドについて、発生するHCNの定量分析を行った。第三に、樹皮組織の誘導防御メカニズムについて知見を得るため、人為的な傷害に応じて生じる傷害周皮の遮断効果について調べた。主な成果は以下の通りである。 【樹皮組織の抗菌活性評価】これまで未検討の植物群としてヤナギ属を対象として、イヌコリヤナギ、オノエヤナギ、バッコヤナギから樹皮片を採取し、培養実験系によりカワラタケの忌避性抗菌活性評価を行った。いずれの樹種でも、抗菌活性は認められなかった。【ナナカマドの樹皮組織から生じるHCNの定量】凍結保存された生の試料では、20 mg/kgを超えるレベルのHCNが発生することが明らかになった。培養実験系で用いるガンマ線滅菌済みの乾燥試料でも、10 mg/kgを超えるレベルのHCNが発生することが確認された。ナナカマドはシアン発生植物に位置付けられることが明らかとなった。【傷害周皮の遮断機能評価】針葉樹、広葉樹それぞれにつき、樹皮型の異なる樹種を1種ずつ選定し、初夏に傷害処理を兼ねて樹幹胸高部より完全な樹皮を含む直径6 mmのコア試料を採取した。このコア試料を正常な樹皮組織の顕微鏡観察に用いるとともに、秋にコア採取痕と周囲の組織を含むようにブロックを採取し、傷害周皮の構造と菌糸体の分布・状態を走査電子顕微鏡で観察した。傷害周皮が菌糸体の侵入を効果的に防ぎ、一層の傷害周皮が損傷した場合には続々と傷害組織が複数層形成されることが明らかになった。
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