• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実績報告書

紅葉は樹冠内部の葉を守り、樹冠全体での炭素獲得と窒素回収に貢献する

研究課題

研究課題/領域番号 20H03036
研究機関国立研究開発法人森林研究・整備機構

研究代表者

北尾 光俊  国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353661)

研究分担者 飛田 博順  国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353781)
田中 亮一  北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20311516)
矢崎 健一  国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (30353890)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード紅葉 / 光阻害 / 炭素獲得 / 窒素回収
研究実績の概要

森林総合研究所北海道支所樹木園に生育するハウチワカエデ成木を対象として、樹冠表層および樹冠内部の葉の光合成活性の季節変化を測定した。光合成活性として、一晩暗順化した葉を対象にクロロフィル蛍光反応測定で得られる光化学系Ⅱの最大光化学効率(Fv/Fm)を測定した。測定は樹冠表層の葉(陽葉)と樹冠下部の葉(陰葉)を対象として行った。Fv/Fmの低下は光阻害が生じていることを表すが、夏季から秋季にかけての7月29日から10月19日までの期間は陽葉、陰葉ともにFv/Fmの低下は生じていなかった。10月27日に陽葉、陰葉ともに顕著なFv/Fmの低下を示した後、11月2日にかけて急速に落葉が進んだ。糖分析の結果から、陰葉では10月8日に一時的に顕著な糖の集積が認められたが、陽葉では落葉直前の10月27日に一時的な糖の集積が生じていた。また、陰葉、陽葉ともに糖の集積と同時に窒素含量の低下が始まっていた。窒素含量はどちらの葉でも落葉時に夏季の値のおよそ30%に至るまで低下しており、落葉までに大部分の窒素を回収していることが示唆された。紅葉の原因となるアントシアニンは、陰葉、陽葉ともに10月8日に増加した。陰葉では陽葉に比べてアントシアニンの量が少なく、10月8日以降の増加は認められなかったが、陽葉では落葉する11月2日までアントシアニンの継続的な増加が観察された。顕微鏡による観察によって、葉柄の周皮細胞の崩壊を確認したが、離層形成による維管束の分断は確認することができなかった。維管束の分断による糖の集積がアントシアニンの合成誘導による紅葉の原因と考えられてきたが、葉での窒素回収が糖の集積後も十分に行われていたこととあわせて、糖集積には離層の形成ではなく、なんらかの生理的な機作が関与することが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は落葉広葉樹を対象として、樹冠表層葉の紅葉化が表層葉ならびに樹冠内部の葉の離層形成、光合成と光阻害、光合成産物の転流、窒素の回収、光合成色素系の動態に及ぼす影響を時系列的に解析することで、紅葉現象の生理生態学的機能を解明することを目的としている。令和2年度は、ハウチワカエデ成木樹冠内の陽葉と陰葉を対象として、当初の予定通り、離層形成の観察、光合成活性の測定、糖・デンプンおよび窒素の定量、光合成関連色素の分析を行なった。また、遺伝子発現解析に必要なiso-seqのデータもすでに取得していることからおおむね順調に進展しているとした。

今後の研究の推進方策

令和2年度に行ったハウチワカエデ成木樹冠内の陽葉と陰葉を対象とした測定により、糖の集積、窒素の回収、ならびにアントシアニンの合成について、陽葉と陰葉での季節変化に特徴的な違いが確認された。糖の集積に関しては離層形成が原因ではなく、窒素回収のためのエネルギーとしてあえて糖濃度を高めている可能性が示唆された。また、陰葉では糖濃度が急激に高まる際に光合成活性の一時的な低下が生じていた。これら季節変化が普遍的なものか確証を得るために、令和3年度もハウチワカエデ成木を対象に令和2年度と同様の測定を行う。具体的な測定項目は以下となる。
1)離層形成(担当:森林総研、矢崎健一)葉柄での離層の発達を顕微鏡による解剖学的手法を用いて評価する。
2)光合成および光阻害(担当:森林総研、北尾光俊)樹冠内外の光環境を全天写真による画像解析を用いてモニタリングするとともに、クロロフィル蛍光反応測定(Mini-PAM II、Walz社)と光合成ガス交換測定(Li-6800、Li-Cor社)を行い、樹冠表層葉と内部葉の光合成低下および光阻害増大のタイミングの違いを明らかにする。
3)光合成産物の転流と窒素の回収(担当:森林総研、飛田博順)樹冠の表層と内部の葉における糖・デンプン、窒素の定量を定期的に行い、光阻害と光合成に関連する物質の動態を解明する。
4)光合成色素系分解に関する生理反応(担当:北海道大学、田中亮一)樹冠表層と内部の葉を対象として、クロロフィル、アントシアニンの定量を行うとともに、光合成色素系の分解に関する遺伝子を対象として発現量の変動を比較する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] Integration of electron flow partitioning improves estimation of photosynthetic rate under various environmental conditions based on chlorophyll fluorescence2021

    • 著者名/発表者名
      Kitao Mitsutoshi、Yasuda Yukio、Kodani Eiji、Harayama Hisanori、Awaya Yoshio、Komatsu Masabumi、Yazaki Kenichi、Tobita Hiroyuki、Agathokleous Evgenios
    • 雑誌名

      Remote Sensing of Environment

      巻: 254 ページ: 112273~112273

    • DOI

      10.1016/j.rse.2020.112273

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Constant ratio of Cc to Ci under various CO2 concentrations and light intensities, and during progressive drought, in seedlings of Japanese white birch2020

    • 著者名/発表者名
      Kitao Mitsutoshi、Agathokleous Evgenios、Harayama Hisanori、Yazaki Kenichi、Tobita Hiroyuki
    • 雑誌名

      Photosynthesis Research

      巻: 147 ページ: 27~37

    • DOI

      10.1007/s11120-020-00788-x

    • 査読あり / 国際共著

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi