研究課題/領域番号 |
20H03043
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久住 亮介 京都大学, 農学研究科, 助教 (70546530)
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研究分担者 |
和田 昌久 京都大学, 農学研究科, 教授 (40270897)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 固体NMR / 磁場配向 / in situ測定 / 単結晶振動パターン |
研究実績の概要 |
本研究は、液体中における微小な結晶の単結晶構造解析が可能なin situ三次元磁場配向NMRシステムを新たに構築し、結晶セルロース-染料複合体をモデルとして同システムによる構造・ダイナミクス解析手法を確立した上で、同手法による結晶セルロース-セルラーゼ複合体の結合部位における局所構造とその動態を解明することを目的としている。研究開始年度である2020年度は、当初の研究計画に基づき次の課題を遂行した。 課題(A):in situ三次元磁場配向NMRシステムの構築 汎用の7.5 mm二重共鳴MASプローブをもとに、試料管の変調回転軸とその回転軸をNMR測定時にのみ駆動させることのできる二軸可変型の磁場配向プローブを設計・作製した。まず、CADソフトウェアを用いて試料回転部の3D設計図を作成し、既存のプローブからMASスピナー等を取り外して作製した試料回転ユニットを取り付けた。試料回転ユニットの構成部品のうち、RFコイルおよび試料管の支えとなる支持体、試料管、変調回転および傾斜のためのレール、プーリーは3Dプリンタを用いて作製した。変調回転および回転軸の傾斜の駆動にはステッピングモーターを採用し、駆動力の伝達はそれぞれドライブシャフトとプーリーによるものとした。超電導磁石およびパワーアンプにはJEOL CMX300 Infinityのものを使用し、固体NMR測定はFPGA集約型NMR分光計OPENCOREに接続して行った。 まず、標準物質を用いて測定のセットアップを行い、信号の正常な送受信を確認した.次にモデル試料としてL-アラニン微結晶の懸濁体を準備し、変調回転磁場下での固体CP NMR測定を行った結果、理論的にシミュレートしたスペクトルと同様のスペクトルを得ることができた。このことから、液体中で三次元磁場配向した微結晶の単結晶振動パターンを直接観測することに成功したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、次の3つの小課題にて構成されている。課題(A)、in situ三次元磁場配向NMRシステムの構築;課題(B)、染料系をモデルとしたin situ三次元磁場配向NMRによる構造・動態解析手法の確立;課題(C)、結晶セルロース-セルラーゼ複合体のin situ構造・動態解析。初年度である令和2年度は、課題(A)の内容である、異方的核スピン相互作用の完全決定のためのin situ三次元磁場配向NMRシステムを構築・完成させる計画であった。システムに必要不可欠な二軸可変型のプローブは、3Dプリンタなどを駆使して順調に組み上げることができた。試料管の変調回転およびその回転軸の傾斜も、設計通り問題なく駆動することを確認している。モデル試料を用いて三次元磁場配向下での固体NMR測定を行ったところ、30度の傾斜角周りで測定のタイミングを変化させることでスペクトル形状が連続的に変化する様子を観測することができた。これは化学シフトの異方性を反映した一連のスペクトル(単結晶振動パターン)が得られたことを示している。観測された振動パターンは理論的にシミュレートした結果と良く一致していたことから、化学シフトの異方性、すなわち化学シフトテンソルを完全に決定できるシステムを構築することに成功したと言える。セルラーゼなどの複雑系へ応用するには分解能・感度ともに不足しているが、現在コイル周りの改良を進めており、これらの問題の解決の見通しは立っている。また、温度可変ユニットや多次元シーケンスの実装もほぼ完了していることから、本研究課題は概ね計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も、引き続き当初の研究計画に沿って研究課題を遂行する。具体的には以下の課題(B)を遂行する。 課題(B):染料系をモデルとしたin situ三次元磁場配向NMRによる構造・動態解析手法の確立 13Cラベル化バクテリアセルロースを酸加水分解等により微細化し、13Cラベル化セルロースナノ結晶(CNC)/水懸濁液を得る。同懸濁液を先に構築したin situ三次元磁場配向NMRシステムに供し、13C化学シフトテンソルを決定する。CNCのほか、酵素触媒重合により作製した13Cラベル化セルロースII型の板状結晶(CIIOC)への応用についても検討する。次に、Congo Redなどセルロース繊維の直接染料を13Cラベル化CNCあるいはCIIOCに作用させ、セルロース-染料複合体の懸濁液を調製する。in situ三次元磁場配向NMRにより結合部位における13C化学シフトテンソルを決定し、量子化学計算を援用して局所構造を精密化する。温度可変下での緩和時間測定も行い、結合部位における分子ダイナミクスを解析する。その上で、CNC/CIIOC・染料単体とセルロース-染料複合体の比較考察を通じ、結合部位の局所構造と運動性の変化について論じる。セルロース複合体における、in situ三次元磁場配向NMRによる構造・ダイナミクス解析の理解を深め、セルロース-セルラーゼ複合体への応用に向けたノウハウを集積し解析に向けた指針を獲得する。
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