研究課題/領域番号 |
20H03049
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
津山 濯 宮崎大学, 農学部, 助教 (40786183)
|
研究分担者 |
雉子谷 佳男 宮崎大学, 農学部, 教授 (10295199)
光田 展隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 副研究部門長 (80450667)
沖 真弥 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (90452713)
高田 直樹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 森林バイオ研究センター, 主任研究員 等 (90605544)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 細胞壁 / 二次壁 / S2層 / ヘミセルロース |
研究実績の概要 |
植物細胞壁は木材の物性やバイオマスの利用性を決定づける。植物細胞壁は外側から一次壁、二次壁と分けられ、さらに二次壁の中でもS1層、S2層、S3層と分かれる多層構造を持つ。木部細胞壁の大部分を占めるS2層は細胞壁の物性に最も大きな影響を与えているが、これまでS2層形成メカニズムについてはほとんど知見が無い。 モウソウチク当年稈成長過程におけるヘミセルロースの堆積パターンから、特に繊維細胞のS2層形成時にはフェルロイルアラビノキシランの堆積が活発になることが示唆されている。フェルロイルアラビノキシランの生合成に関係すると考えられるBAHD1に着目し、モウソウチクにおけるBAHD1ホモログを複数のデータベースを用いて探索したところ、以前発見した1遺伝子に加え別の2遺伝子が見つかり、PeBAHD1;1-1;3と命名した。これらをクローニングした結果、3つの遺伝子は独立した遺伝子と考えられた。これらの遺伝子の機能解析を目指し、PeBAHD1;1-1;3を過剰発現させたシロイヌナズナおよびイネの作出に向けてコンストラクトを作製した。 また繊維細胞の二次壁生合成制御には、NSTやMYBといった転写因子が関係することが知られている。そこでモウソウチクにおけるNSTホモログを系統樹解析により絞り込み、クローニングした。さらに、二次壁生合成制御に関係すると考えられるMYBのモウソウチクにおけるホモログをクローニングした。 ポプラにおいて二次壁生合成関連遺伝子と考えられる候補のうち、いくつかについてゲノム編集による候補遺伝子欠損体の作出を試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェルロイルアラビノキシランの生合成に関係すると考えられるBAHD1に着目し、モウソウチクにおけるBAHD1ホモログを複数のデータベースを用いて探索した。その結果、以前発見した1遺伝子に加え別の2遺伝子が見つかり、PeBAHD1;1-1;3と命名した。これらをクローニングした結果、3つの遺伝子のCDS領域の塩基配列は類似していたものの、UTR領域の配列が異なったことから、3つは独立した遺伝子と考えられる。3遺伝子の発現解析の結果、PeBHAD1;3の発現量が有意に高いことが明らかになった。PeBAHD1の機能解析を目指し、PeBAHD1;1-1;3を過剰発現させたシロイヌナズナおよびイネの作出に向けてコンストラクトを作製した。 モウソウチクにおけるNSTホモログを絞り込んだところ4つ見つかり、うち2つのクローニングに成功した。また二次壁生合成に関連すると考えられるMYBのうち、モウソウチク当年稈で発現していた1つの遺伝子のクローニングに成功した。さらに、ポプラにおいて二次壁生合成関連遺伝子と考えられる候補のうちいくつかについて、ゲノム編集による候補遺伝子欠損ポプラの作出を試みている。 細胞壁形成段階が様々なタケ当年稈を用いて植物ホルモンの分析を行った。その結果、タケの細胞壁肥厚があまり進んでいない稈上部の節間と、細胞壁肥厚が進行した細胞が多い稈下部の節間で植物ホルモンの量が異なった。細胞壁層形成に植物ホルモンが関与している可能性が考えられるが、細胞分化や細胞伸長・拡大に役割を果たしている可能性も考えられる。 植物における組織特異的発現解析手法の確立に向けて条件検討を進めた。モウソウチク当年稈の切片1枚を用いて、逆転写反応およびin vitro 転写反応に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
モウソウチクにおける細胞壁多糖のフェルロイル化制御機構に迫る。クローニングしたPeBAHD1;1-1;3の機能を解析するため、イネおよびシロイヌナズナにおける過剰発現体を作出する。また、PeBAHD1を転写制御するメカニズムを調べる。イネプロトプラストを用いたトランジェントアッセイ法により、PeBAHD1の発現が二次壁生合成を制御すると考えられるNSTやMYBの制御下にあるかどうかを明らかにする。さらに、イネの転写因子ライブラリーを用いたハイスループット酵母ワンハイブリッドスクリーニング法により、モウソウチクBAHD1遺伝子の発現を制御する転写因子を網羅的に探索し絞り込む。絞り込んだ転写因子の発現パターンを解析し、二次壁S2層形成制御の候補転写因子を更に絞り込む。 植物における組織特異的な発現解析法の確立を目指し、条件検討を進める。細胞質が豊富な細胞数が多いモウソウチク当年稈の切片を用いて、光化学反応により組織別のRNAライブラリーを調製し、発現解析を試みる。 ポプラにおいて二次壁生合成関連遺伝子と考えられる候補のうちいくつかについて、ゲノム編集による候補遺伝子欠損ポプラを作出する。カルスから植物体を再生し、長期間栽培して表現型を解析する。また、二次壁S2層生合成を制御すると考えられるモウソウチク転写因子を、過剰発現あるいは発現抑制させる組換えイネの作出を試みる。 以上から得られた結果を取りまとめ、学会発表を行う。
|