研究課題/領域番号 |
20H03059
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 一生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (00301581)
|
研究分担者 |
岡崎 雄二 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), 主任研究員 (90392901)
筧 茂穂 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), 主任研究員 (20371792)
一宮 睦雄 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (30601918)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 親潮 / ブルーム / 浮魚 / カイアシ類 / 繊毛虫 / 混合栄養性 / 栄養塩 |
研究実績の概要 |
本課題は、春季ブルーム終了後も親潮域において餌料性動物プランクトン(カイアシ類)の高い生産が維持される鍵として微小動物プランクトン、とくにその混合栄養性に焦点をあて、本生物群が微生物環と生食連鎖を結合、強化することにより上位栄養段階生物群を支え、魚類生産に繋がる食物網が形成されるという仮説のもと、各重要過程を現場観測と室内実験により検証し、親潮域浮魚資源を支える低次生物生産過程の真の姿を明らかにすることを目的とする。初年度は研究船による現場観測を実施し動物プランクトンおよのその餌料生物の分布、動態と調査を実施する計画であったが、コロナ禍のため航海に参加することが出来なかった。このため過去航海で得られたビデオプランクトンレコーダー(VPR)のデータを利用してカイアシ類鉛直微細分布と海洋環境(物理、植物プランクトン、マリンスノー)の関係について詳細な解析を実施した。その結果、親潮域カイアシ類主要種はポストブルーム期に大きく変動する餌環境に敏感に応答して鉛直分布を変化させていることが示された。さらにその分布パターンから主要カイアシ類種のうちブルーム形成珪藻種を餌として直接利用しているのはEucalanus bungiiの成体のみであり、他の種は沈降粒子や微小動物プランクトンを主に餌料として利用している可能性が示された。とくに食性に多くの不明点があることが指摘されてきた大型種Neocalanus cristatusは環境によって沈降粒子、微小動物プランクトン食を切り替えている可能性が強いことが示された。また浮魚が最もよく利用しているNeocalanus plumchrusは、珪藻ブルームが終了し表層の成層化が進んだ環境において混合層以浅に集中して分布することが明確に示された。この環境はクロロフィル濃度が極めて低いという特徴があり、マリンスノーなどの懸濁物も認められなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な興味の対象である餌料性カイアシ類の表層への出現過程と分布を決定する機構について詳細に明らかにすることができた。この結果は浮魚類の餌料環境変動の理解において極めて重要な知見である。また春季珪藻ブルームが発達する親潮域において多くのカイアシ類が珪藻を直接利用していないという可能性は、ポストブルーム期の生産が浮魚餌料環境形成に重要であるという本課題の仮説を支持するものであり、プロジェクト構成と方向性が適切であることを確認できた。Neocalanus plumchrusの生産が高い環境(ポストブルーム期)は植物プランクトン濃度が極めて低いことから、低次生産の実態把握および、これがカイアシ類生産を支えるメカニズム解明が次年度以降の重要な課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究航海に参加し親潮域ポストブルーム期における混合栄養性繊毛虫の分布と環境要因の関係について現場観測、実験等により明らかにする。さらに基礎基礎生産者の栄養塩利用実態を明らかにするための実験系の検討、微小動物プランクトンの補食、被捕食実態把握のための実験を実施する。
|