研究課題/領域番号 |
20H03067
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
隠塚 俊満 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 主任研究員 (00371972)
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研究分担者 |
小池 一彦 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30265722)
小原 静夏 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 助教 (10878276)
植木 尚子 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (50622023)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複合影響 / 一時生産者 / 除草剤 / 抗生物質 |
研究実績の概要 |
和歌山市から広島県呉市にかけて陸域から瀬戸内海本州側の採水調査を実施し,昨年度確立した人為起源化学物質(AC)である抗生物質および除草剤の分析法を用いて環境水中濃度を測定した。その結果,広島県三原市,兵庫県姫路市,大阪府忠岡町から合計濃度100-250ng/Lと,比較的高濃度でACが検出された。これらの調査地点は下水処理場や下水汚泥処理場から直線距離で概ね500m未満であり,これらの処理水の影響が推定された。 瀬戸内海で検出されるACと本海域で優占する植物プランクトン種を用いて影響試験を行った。除草剤ジウロンとブロマシルの50%光合成阻害濃度(EC50-ETR)は珪藻2種よりも鞭毛藻2種で低くかった一方で,50%増殖阻害濃度(EC50-μ)は種間差がほぼ無いか,寧ろ珪藻2種の方が低かった。これは珪藻が除草剤による光合成阻害によって増殖も阻害される一方で,鞭毛藻は光合成を阻害されても増殖速度をある程度維持できることを示唆した。抗生物質クラリスロマイシン,クリンダマイシン,アジスロマイシンのEC50-ETRおよびEC50-μはどちらも珪藻2種の方が鞭毛藻2種よりも低く,光合成阻害と増殖阻害で同じ傾向を示した。これは抗生物質が光合成だけでなく他の代謝経路(呼吸など)も阻害する可能性を示唆した。植物プランクトン種ごとに比較すると,何れの指標を用いても珪藻Skeletonema costatumは抗生物質に対する感受性が特に高かった。 2021年6-10月に月1回,広島県福山市の一級河川芦田川河口と河口近くに位置する田尻港の表層水を採取し,現場海水の化学物質を等倍,5倍,10倍,50倍に濃縮した濃縮液を珪藻S. costatumに曝露し培養試験を行った。芦田川河口試水では6月の10, 50倍,8月の50倍で,田尻港試水では7, 8, 10月の50倍濃縮区で50%以上増殖が阻害された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度までに抗生物質や除草剤など人為起源化学物質(AC)の環境水中濃度およびACの微細藻類に及ぼす影響を明らかにしており,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,瀬戸内海で特に陸域からの影響が大きい海域の人為起源化学物質(AC)濃度を液体クロマトグラフ質量分析計により測定する。昨年度は冬季に陸域からの調査を実施したため,今年度は夏季に調査を実施する。 昨年度に引き続き福山市田尻港を重点調査地点に設定し,AC測定と合わせて植物プランクトンの出現・光合成速度の測定を実施する。また,観察された事象へのACの影響を検討するため,海水中化学物質を濃縮・添加して,現場藻類の生理状態に与える変化を定期的に追跡する。 昨年度に引き続き,高感受性種(高リスク種)および低感受性種(低リスク種)を用い,実環境中に近い物理的条件との影響を検討して複合的な影響を明らかにするするとともに,ACの生物濃縮や藻体のタンパク質発現検討などにより,感受性の種間差が生じるメカニズムの解明を試みる。
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