研究課題
本研究の目的は、藻類が持つ相分離するオルガネラをモデルとして、水圏環境の光合成の維持に関わるCO2濃縮機構を相分離の視点で捉え直すことである。具体的には、藻類の葉緑体内でCO2固定酵素Rubiscoが凝集した構造であるピレノイドについて、1) 相分離するピレノイドの構成因子、2) ピレノイド構成因子の1細胞観察によるドロプレット内の分子の振る舞い、3) 相分離状態が異常になったピレノイド変異株のスクリーニングによるピレノイドの消失・生成・数・分裂を制御する因子、について明らかにする。ピレノイドの構成因子については、Rubiscoと結合し低複雑性ドメインを持つEPYC1が同定されていたが、他の因子については不明であった。本年度は分子遺伝学的手法により、ピレノイドの構成因子の同定を目指した。CO2濃縮機構が誘導される低CO2条件において、CCMの駆動が異常になったために生育が遅延する高CO2要求性変異株をスクリーニングした。その結果、野生株では必ず1個に保持されるピレノイドの数が複数になり、無機炭素への親和性が低下した複数のアリル変異株の単離に単離した。その原因遺伝子は、Rubiscoとの結合モチーフをもつタンパク質であることが明らかになった。原因遺伝子の変異により影響を受ける下流の遺伝子群も同定し、同タンパク質がCO2濃縮機構の駆動に大きく寄与することが明らかになってきた。また、ピレノイド構成因子の1細胞観察によるドロプレット内の分子の振る舞いについても研究を進めており、マイクロ流体デバイスを用いたピレノイドの分裂の高解像度リアルタイム1細胞観察の系を立ち上げた。さらに、ピレノイドの相分離状態が異常になったピレノイド変異株のスクリーニングも進めており、今年度はピレノイドの数に注目して、その数が異常になった変異株を複数単離することに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
当年度の目標であったCCM構成因子の同定に加えて、マイクロ流体デバイスを用いたピレノイドの分裂の高解像度リアルタイム1細胞観察の系の立ち上げや、ピレノイドの相分離状態が異常になったピレノイド変異株のスクリーニング系の立ち上げにも成功したため、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
分子遺伝学的に同定したピレノイド構成因子についての研究をまとめ、国際学術誌で発表する。ピレノイドの分裂を観察し、相分離するピレノイドを構成する因子が、細胞分裂時にどのようにふるまうのか、その挙動を詳細に観察する。具体的には、Rubisco、ピレノイド周囲に局在するタンパク質、デンプン鞘に局在するタンパク質、ピレノイドチューブ(ピレノイドに貫入したチラコイド膜)に局在するタンパク質とVenusとの融合タンパク質を発現する株を作出し、今年度の予算で購入した1細胞ライブセルイメージング観察ツールCellASIC ONIX2(メルク社)を用いて高解像度リアルタイム1細胞観察を行う。また、今年度に作出したピレノイドの数が異常になった変異株の原因遺伝子を同定するとともに、その分裂の様子を同様に1細胞観察する。野生株と変異株のピレノイドの分裂の挙動を定量的に比較解析できる系を立ち上げる。
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Plant Physiology
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https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-05-26-1