研究課題/領域番号 |
20H03081
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
高野 倫一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 主任研究員 (40533998)
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研究分担者 |
杣本 智軌 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40403993)
松浦 雄太 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 任期付研究員 (40823894)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNAワクチン / ギンブナ / ラブドウイルス / 受動免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、ギンブナに感染するラブドウイルスのCarp Haematopoietic Necrosis Virus(CHNV)をモデルとして、魚類でDNAワクチンが有効性を発揮するためのメカニズムを解明する。 令和3年度までに、CHNVの全ゲノム配列を決定した。CHNVゲノム配列から予測したグリコ(G)プロテイン遺伝子またはヌクレオキャプシド(N)プロテイン遺伝子を挿入したDNAワクチン(順に、pcDNA-CHNVgまたはpcDNA-CHNVn)を作製し、それぞれをDNAワクチンとしてギンブナ筋肉に注射し免疫した。次いで、CHNVを腹腔内に注射し攻撃したところ、pCDNA-CHNVgで免疫した場合にはCHNV感染に対する防御効果が認められた。 令和4年度は、DNAワクチンで免疫したギンブナの白血球を移植することで受動免疫が成立するかを確認した。pcDNA-CHNVgまたは対照のpcDNA6 V5-His A(空ベクター)を繰返し4回接種したギンブナを用意し、それぞれのDNAワクチンを接種した個体の腎臓白血球を別々に回収した。次いで、抗ギンブナCD8αモノクローナル抗体を用いたMagnetic-activated cell sorting (MACS)でCD8α陽性白血球(CD8+cells)とそれ以外の白血球(CD8-cells)を分画した。全白血球、CD8+ cellsまたはCD8- cellsをnaiveなOB1系統ギンブナに腹腔内注射で移植し、24時間後に致死量のCHNVウイルスを腹腔内接種した。その結果、pcDNA-CHNVg接種魚の全白血球またはCD8- cellsを移植した場合には累積死亡率が顕著に低下した。興味深いことに、pcDNA-CHNVgと空ベクター接種の何れにおいても、細胞傷害性T細胞が含まれると考えられるCD8+ cellsを移植した場合には60%以上の累積死亡率が観察された。このことから、pcDNA-CHNVgを接種したギンブナのCD8- cellsがCHNV感染防除に重要な役割を果たし、受動免疫を成立させると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題に着手するまではCarp Haematopoietic Necrosis Virus(CHNV)のゲノム配列は決定しておらず、分類学的な位置も不明だった。本課題の実施によりCHNV全ゲノム配列が決定され、ゲノムの3’側から順にN、フォスフォ(P)、マトリックス(M)、GおよびRNAポリメラーゼ(L)プロテイン遺伝子が存在することを明らかにすることができた。分類学的にはSprivivirus属のGrass carp rhabdovirus (GCRV) と近縁であることを明らかにした。CHNVの遺伝子から作製した2つのDNAワクチン(pcDNA-CHNVgおよびpcDNA-CHNVn)を用いた試験からは、pcDNA-CHNVgにのみ感染防御効果が認められることを明らかにした。さらに、pcDNA-CHNVgで免疫したギンブナの腎臓白血球のうち、細胞傷害性T細胞が含まれると考えられるCD8α陽性白血球(CD8+cells)の分画ではなく、それ以外の分画(CD8-cells)を移植した場合にCHNV感染が防除されることを白血球の移植試験から示した。 令和5年度は、pcDNA-CHNVg で免疫したギンブナのそれぞれの白血球亜集団をCHNV感染細胞にin vitroで作用させ細胞傷害が認められるかを解析する。同時にトランスクリプトーム解析を行い発現変動する遺伝子からどのような免疫応答が生じているかを推定する。 これらの試験を実施するために必要な培養細胞、試験魚、および白血球マーカーに対するモノクローナル抗体の準備は済んでいる。本課題はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、DNAワクチンで免疫したギンブナの白血球が、CHNV感染細胞に対して傷害活性を示すかを評価し、さらにトランスクリプトーム解析からどのような免疫応答が生じているかを推定する。細胞傷害活性試験については、pcDNA-CHNVgで免疫したギンブナから白血球亜集団(CD8+ cellsやCD8- cells)をMACS法を用いて分離する。次いで、CHNVを感染させたギンブナ培養細胞とin vitroで共培養し細胞傷害活性を測定する。さらに、共培養中の細胞からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を実施し、DNAワクチン有効性発揮に関わる分子やカスケードを推定することで、CHNV防除に重要な免疫応答を明らかにする。
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